2026年3月31日(火)

日本の縮充化

2026年3月31日

 岡山空港から車で北上すること約1時間。住宅や田んぼが続く道路沿いに、突然、まるで倉庫のようなプレハブの建物が現れた。岡山県の中心部に位置する美咲町の町役場だ。2005年の「平成の大合併」で3町が合併した美咲町。合併当時の人口は1万6500人だったが、年々減少し、現在では1万2300人になった。

(MALTE MUELLER/GETTYIMAGES)

 町長の青野高陽さんには忘れられないことがある。今日の美咲町役場のプレハブ化へと続く「賢く縮む」政策を職員から提案された時、「縮む」考えを受け入れられず、職員を責めてしまったことがあるのだ。

 美咲町出身の青野さんは新聞記者を経て県議会議員になり、18年に美咲町長に就任した。1年後、職員が提出した総合計画の中に、件の「賢く収縮」の文字があった。

美咲町長の青野高陽さん(Wedge以下同)

 「なぜ『賢く収縮(スマートシュリンク)』と書いたのかと職員に問いただすと、『人口減少を考えると現実を見なければいけない。これは新しい挑戦で、視察も来るようになりますよ』と答えたので、思わず、『こんな町に視察なんて来るものか』と言ってしまいました」

 その後、青野さんの考えが変わる出来事が起きる。19年、町営の温泉施設が故障したため、修復するか、取り壊すかを迫られたのだ。

 「温泉施設の経営は火の車で、年間で2000万円もの赤字でした。このままでは町のためにならないという考えの職員も多く、取り壊しを決断したところ、反対署名が集まり、住民説明会では70人のほぼ全員から5時間ほど詰問されました」

 青野さんの自宅と温泉施設は同じ地区にあったため、町長であるにもかかわらず四面楚歌になった。

 「公共施設を一つ壊すということがいかに大変かを身に染みて感じました。また、『現実を見なければいけない』という職員の言葉の意味を心底理解することができました」

 合併した美咲町は、旧3町に同じような公共施設があり、人口に対する延べ床面積が全国平均の2倍以上もあった。当時の公共施設の維持費は年間平均6億円だったが、いずれは年間平均11億円になることが試算で明らかになり、未来に向けて改革を始めた。それぞれの公共施設に「施設カルテ」を作成し、地域ごとに適正な配置を目指して集約を進めていった。福祉センターや図書館、公民館など一つの施設に集約して利便性向上を図ったのである。

 また、ただ壊して集約するだけではなく、地域の拠点となる施設は、トイレや空調を改修して「人が集まりたいと思える場所」にする工夫も凝らし、さらに人口減少が進んでも、最後の拠点となることを想定した。

 美咲町役場を中心として物産センターや公民館を集約して設置した「美咲町多世代交流拠点(みさキラリ)」では、物産センターの売り上げが3割増、図書館の利用者が4倍にもなったという。町役場も、これからの人口減少を見据え、前町役場よりも執務面積を3割強、町長室にいたっては5割縮小しつつも、授乳室などを設置して建て直した。

 青野さんはこう話す。

 「最初はプレハブの建物にふてくされていました。でも、未来の住民がこの建物を建て直す時、解体費用は以前の半分で済む予定なんです」

「賢く縮む」町の住民
自分ごととして考える

 青野さんは、岡山県北で初となる小中学校を統合した義務教育学校の開校も成し遂げた。「賢く縮む」中でも、子どもの幸せを最優先し、教育を整える施策であったが、反対意見もあり、多くの話し合いを重ねた。美咲ブルーファーム寒竹でブルーベリー栽培をする町民の小坂祐子さんは、義務教育学校「柵原学園」に子どもを通わせている。

 「義務教育学校は9学年が在学しているので、幅広い学年の子とかかわることができるのが良いところなのではないでしょうか」


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