2026年3月30日(月)

日本の縮充化

2026年3月30日

 過疎高齢化が進む島根県。「課題先進県」だからこそ「課題解決県」になれるはずと、島根県内の様々な取り組みを取材してまとめた『日本の未来は島根がつくる』(山陰中央新報社)の著者で、島根県立大学准教授の田中輝美さんに話を聞いた。

(MALTE MUELLER/GETTYIMAGES)

 島根県浜田市出身の田中さん。大阪大学を卒業後、地元紙である山陰中央新報社に就職する。実は、当初それは望んだ選択ではなかった。

日本の未来は 島根がつくる
田中輝美 山陰中央新報社
1760円(税込)
山陰中央新報で2015年から20年まで6年間連載した、「しまね未来探訪」をベースに、著者の解説、若手大学生の座談会を加えた形で、島根を通じて日本の未来を考える。

 「都市の大手紙を目指していましたが、実力不足と就職氷河期もあり、正直、『都落ち』だと思いました。入社後、大手紙に転職活動をしました。そこで、数年で担当地域が変わる大手紙の良さもある一方、地方紙は地元という立脚点がある幸せに気付きました。それなのに、地方に戻ることが都落ちというような一般的なイメージ、つまり、他人の『ものさし』で、思い込んでいた。そうではなく、これからは自分の『ものさし』で、主体的にここを選んで生きていこうと決め、転職はやめました」

 田中さんはこうも言う。

 「人は、自分が生まれるところは選べない。たまたまそこで生まれたからといって無用な劣等感を持たずに生きられる社会が望ましいのではないでしょうか。都市にも、地方にも、良いところもあれば、課題もある。自分に合うところが選べる社会になるといいなって思います。

 かつては『都会に出て、いつかは世界へ』が〝立身出世〟だとイメージされがちでした。その道も良いですが、一方で、足元の地元にも、一生懸命頑張って生きている魅力的な大人がたくさんいます。そうした大人に会える機会が、子どもの頃からもっとあると良い。偏差値以外の『ものさし』も多様にあるはずです」

 広島出身で大学から東京に出てきた小誌記者も田中さんの意見には全く賛同するが、外の世界に出たからこそ見えてきた地元(地方)の良さもあると感じる。

 「そこは、とても私も悩んでいます。地元に残ることが、全員にとって唯一絶対の正解ではないと思います。大人も善意で、『外に出た方がいい、修行して成長できるよ』と助言する、その気持ちもよくわかります。ただ、私は地方紙時代に東京支局に勤務した経験があります。その時、あくまで立脚点が地元にあった、つまり、地方紙の社員として地元に『アンカー(錨)』を打ちながら、都会で働いて学び、吸収する。そうすることで、地元の暮らしの魅力にもあらためて気づいて戻ってくることができました。もちろん、都市にアンカーがある人もいます。どちらを立脚点にするのかは、その人次第です。大切なことは、地方から都市へ、都市から地方へと、お互いが、もっと気楽に、軽やかに行き来できる社会や地域をつくることだと思います。

 忘れたくないのは、家庭の経済状況などで、移動することが難しい若い世代もいるということです。そこに思いを馳せることなく、『外に出たらいいよ』と安易に言えば、『出ないと自分は成長できないのか』と、結果的に傷つけてしまうことになりかねません。

 いまでも、都会に出ないと成長できないという考え方は根強くあります。ただ、どこにいようと、結局は自分のあり方次第ではないでしょうか。都会でも成長できるかもしれないけど、地方でも成長できる。『自分のあり方次第だから、一緒に頑張ろう』と言ってくれる大人が増えていくことも大切です」


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