変えることができる
社会の構造問題
1964年の東京五輪の翌年、島根県で卒業、就職した中学生のうち77%が県外に就職している。現在でも、高卒進学者の84%(2019年)が県外に進学している。
「島根県には、島根大学と、県立大学の2つしか大学がなく、これは全国で最少です。隣県の大学に通おうとしても、地理的条件で難しい。県内に残りたくとも、大学受験の結果によって、県外に出なければならない。一方で、東京には大学が145校あり、都会に偏在している状況は社会的な構造です。変えられないわけではないと思います」
著書『日本の未来は島根がつくる』でも紹介されているように、島根をはじめとする地方では「人がいないから無理」ではなく、「ないなら自分たちでつくる」「何かを始めてみる」と、前向きな人が少なくない。
「島根の人たちが特別に意識が高いという意味ではなく、戦後の日本で最初に過疎や人口減少という現実に直面したおかげで、だからこそ何とかしようという精神性が育まれることにつながったのだと思います」
本書でも紹介されたビニールハウス居酒屋など、現在では終了しているものもある。でも、「何かにチャレンジする人は、定期的に違うチャレンジをする傾向が強く、失敗は失敗ではない」と田中さんは言う。
「RPGゲームに例えることがよくあります。人口減少地域は、ある意味『原っぱ』で、何かにチャレンジする『勇者』が現れただけで、すでにウェルカムです。応援しようという雰囲気もあります。例えば、パン屋を出店しようとしても、『人口が少ないから無理』と思われがちですが、口コミが広がって人気店になるケースは少なくありません。
島根県全体で人口は63万人。私の住んでいる浜田市は5万人。もっと小さい集落では数百人です。そういう中で、実際に生きている感覚だと、自分が考えて動いたり、口にしたりしたことへの反応が目に見えてあって、物事が動いていく手触り感、手作り感がめちゃくちゃあって、とてもおもしろいです。
地域を残すことのみに価値を置くより、最後の一人になったとしても、その人が自分の営みを幸せに続けていけることを大切にしていく。そう考える方が人口減少時代にはより適しているのではないかと思います」
課題もある。上下水道などインフラの老朽化が進んでおり、財政余力のない地方ではさらに深刻だ。
「記者時代、そうした問題も関心を持って取材しました。今後、どのようにインフラを持続するのか考える時、『暮らしの視点』からの再構築が重要であると感じています。
昨今、民間企業同様、行政に対しても、〝稼ぐ〟ことが求められるような雰囲気を感じますが、それよりも、行政は住民の『暮らし』を守るために欠かせない公共的な存在ではないでしょうか。行政は採算性とは距離を置き、民間が稼ぐ。官民が役割分担しながら、住民とともに力を合わせて暮らしを守ってほしいですし、私も実践したいです」
