2月末に米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始して以降、世界経済の混迷が深まっている。もちろん、最も顕著なのは、生産施設への攻撃やホルムズ海峡の封鎖で、石油・ガス供給に混乱が生じていることだろう。
だが、石油・ガス市場のみならず、各種コモディティの供給見通しも不透明になってきている。その中で、特に注目されているコモディティの一つがヘリウムである。ヘリウムと聞くと、風船や、「変声」のおもちゃを連想しがちで、「そんなに大事なものなのか?」と疑問を抱く向きもあるかもしれない。しかし実際には、現代社会を支える多くの技術に不可欠な素材なのである。
たとえば半導体の製造工程では、回路をシリコン基板に焼き付けるリソグラフィ装置のレーザーにヘリウムが使われており、スマートフォンやパソコン、自動車など幅広い製品の生産に影響が及ぶ可能性がある。また医療分野では、MRI装置の超伝導磁石を極低温に保つために液体ヘリウムが欠かせない。医療機関での診断装置の運用や新規導入にも影響が出かねない。さらに宇宙開発や量子技術など先端研究の多くでも利用されている。
つまりヘリウムは、日常生活ではほとんど意識されないものの、電子機器や医療、先端技術の基盤を陰で支える資源であり、その供給不安は私たちの生活にも間接的だが確実な影響を及ぼしうるのだ。
注目すべきことに、ロシアは一説に世界のヘリウム資源の4分の1ほどを握っているとされる。むろん、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対して、国際社会は広範な経済制裁を適用しており、そうしたロシアからのヘリウム輸入を考えるのは、基本的に「禁じ手」ではある。しかし、ホルムズ海峡危機を受け、一部のアジア諸国がロシア産原油の購入に動いているように、重要資源の確保に窮した場合には、綺麗事ばかりも言っていられないのも事実である。
それでは、これから日本がヘリウムの確保に本当に困った際に、ロシアからの調達は可能だろうか? そのような窮地に陥らないことを願うばかりだが、今のうちに頭を整理しておく価値はあるだろう。
