2026年4月1日(水)

プーチンのロシア

2026年4月1日

ヘリウムの特殊性

 まず、基本点の確認から。ヘリウムは元素番号2の希ガスで、化学的にほとんど反応しない安定した物質である。空気よりもはるかに軽く、融点・沸点がすべての元素の中で最も低いなど、物理的にも特殊な性質を持つ。

 地球上のヘリウムの多くは、ウランやトリウムなどの放射性元素の壊変によって長い時間をかけて地下で生成されたもので、天然ガス田の中に微量含まれる形で蓄積される。このため商業的なヘリウム生産は、天然ガスの採取・処理の過程で副産物として回収する形が一般的である。

 一方、ヘリウムは分子がきわめて小さく漏れやすい気体であり、地表に放出されると大気中を上昇して最終的には宇宙空間へ逃げてしまう。回収・再利用が容易な資源ではなく、備蓄も簡単ではない。輸送も多くの場合、マイナス269℃近くまで冷却した液体ヘリウムとして特殊な極低温容器で行われる。

 ヘリウム資源は地球上に広く存在するわけではなく、上述のとおり主に天然ガス田の中に微量含まれる形で賦存している。このため、商業的な生産が可能な地域は限られている。現在の主要な生産地域は、米国、カタール、アルジェリア、ロシアなどである。

 特に米国は長年にわたり世界最大の生産国であり、テキサス州などのガス田を背景に供給の中心を担ってきた。一方、カタールは巨大ガス田ノースフィールドを基盤に近年急速に生産を拡大し、世界供給の3割前後を占める重要な供給源となっている。ちなみに、タンザニアには天然ガスではなく地殻放射性元素から生まれたヘリウムが存在し、ヘリウム濃度が4~10%と異常に高いガスが確認され脚光を浴びているが、まだ商業生産は始まっていない。

 このようにヘリウム供給は少数の国に集中しており、そのことが地政学的リスクを受けやすい市場構造を生んでいる。今般の中東危機では、実際にカタールのラスラファンにある世界最大級のヘリウム分離・生成プラントが停止する事態となり、供給不安を世界全体に広げた。

 ヘリウムは備蓄や長期保存が容易ではなく、供給途絶が生じると市場への影響が比較的早く現れやすいという特徴もある。韓国の半導体メーカーなどでは、米国やロシアからの調達拡大を検討する動きも伝えられており、今後の地政学情勢次第では、ヘリウム市場でも供給構造の変化が生じる可能性がある。

ソ連時代からロシアのヘリウム生産

 歴史を遡ると、かつてのソ連は比較的早い時期からヘリウムの戦略的重要性を認識していたようだ。ヘリウムはロケット燃料タンクの加圧や極低温技術など宇宙・軍事分野で不可欠なガスであり、冷戦期の科学技術競争の中で安定供給が重視されたためと言われる。

 1970年代にはウラル地方のオレンブルグ・ガス田の開発に伴い大規模なヘリウム分離設備が建設され、ソ連は世界有数のヘリウム生産国となった。しかし、91年のソ連崩壊後は、産業需要の縮小や投資不足もあり、ヘリウム生産は長く停滞することになる。なお、今日に至るまでロシアの主力ガス産地となっているのは西シベリア(チュメニ州ヤマロ・ネネツ自治管区)であるが、西シベリアのガスはヘリウム含有量が低いので、回収はほとんど行われていない。


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