ロシアのヘリウム活用が再び動き始めたのは2000年代後半である。東シベリアの天然ガス資源開発、とりわけ中国向けパイプライン輸出を念頭に置いたガス田開発が進む中で、天然ガスに含まれるヘリウムを副産物として回収する構想が浮上した。
ロシアのヘリウム生産拡大の中核を担う施設として、アムール・ガス加工工場が建設されることになった。それを担ったのが、天然ガス部門の国策企業であるガスプロム社であった。
アムール・ガス加工工場
東シベリアのチャヤンダ・ガス田、コヴィクタ・ガス田の開発構想はソ連末期から存在していたが、2014年のクリミア危機後、中国向けガス輸出の実現が急務となり、それが両ガス田の本格開発を後押しする形となった。
その際に、チャヤンダのガスはヘリウム含有量が0.5~0.6%と比較的高く、エタンなど重質成分も多いという特徴があった。このガスは単純に燃料としてパイプライン輸出するには惜しい組成である。中国向けのガスパイプライン「シベリアの力」を建設し、メタン主体のガスを中国に輸出するにしても、輸送前の段階でヘリウム、エタン、液化石油ガス(LPG)成分などを分離する方が合理的である。
そこで構想されたのがアムール・ガス加工工場であり、ここではガスを徹底的に分離・利用するモデルが採用された。すなわち、メタンは中国へ輸出し、エタンは石油化学原料に、LPGは燃料・化学原料に回して、ヘリウムを工業ガス市場に供給するという方式が選択されたのである。
ガスプロム社のホームページによると、アムール・ガス加工工場の設計能力は、天然ガス処理量が年間約420億立方メートル(㎥)、ヘリウム生産量が最大6000万㎥、エタンが240万トン、プロパンが100万トン、ブタンが50万トン、ペンタン・ヘキサン分画が20万トンとされている。
アムール・ガス加工工場の建設は15年10月に開始された。並行して、ウラジオストクでは世界最大のヘリウムコンテナ整備ロジスティクスセンターが稼働。工場の雇用は約4700人になる見込みである。
中国向けのガスパイプライン「シベリアの力」では当初、19年に生産を開始したサハ共和国のチャヤンダ・ガス田を資源基盤としていた。22年にはイルクーツク州のコヴィクタ・ガス田の資源も加わり、これによりシベリアの力はフルキャパシティでの稼働に近付いていった。ただし、コヴィクタのガスはチャヤンダのそれに比べるとヘリウムの濃度は低目となっている。
アムール・ガス加工工場が稼働するにつれ、ロシア全体のヘリウム生産量も、グラフのように拡大している。25年の時点で、国全体のヘリウム生産量の95%が、アムール工場に集中している。


