2026年4月1日(水)

プーチンのロシア

2026年4月1日

現実的にはロシアに多くを期待できず

 問題は、カタールからのヘリウム供給不安が深刻化・長期化した場合、その穴をロシアがどこまで埋められるかであろう。むろん、ウクライナ侵攻を続けるロシアに、なるべく戦費を稼がせないというのが基本ではあるが、日本がヘリウム不足でにっちもさっちも行かなくなったような場合には、背に腹は代えられなくなる。

 上述のとおり、アムール・ガス加工工場の設計能力は、ヘリウム生産量が最大6000万㎥とされており、これは単一拠点としては世界最大級の規模である。理論的には、同施設がフル稼働すれば、世界供給のかなりの部分を補う潜在力を持つ。

 しかし、実はアムール工場の立ち上げはスムーズなものではなく、2度の大規模な事故に見舞われている。最初の事故は21年10月8日に発生し、ヘリウム分離工程を含むガス分離ユニットでガス漏れが生じ、爆発・火災に至った。22年1月5日、工場で再び爆発事故が発生した。今度は、ガス処理ユニットの一部が破損し、建屋の一部が崩壊するなど、より大きな被害が出た。この事故により、複数の処理ラインが停止し、修復にはかなりの時間がかかった。

 もともと、アムール工場の建設はロシア単独の技術によるものではなく、極低温ガス分離などの中核技術はドイツやフランスなど西側企業の設備とノウハウに依存していた。22年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、先進諸国の制裁が強化され、多くの外国企業がロシア事業から撤退した。

 結果として、事故で損傷した設備の修復や部品供給、技術支援の確保が難しくなり、プラントの完全な立ち上げは当初計画より遅れることとなった。事故そのものは制裁とは無関係に発生したものの、その後の復旧や運転安定化の過程では、外国企業の撤退がロシア側にとって大きな制約要因になったと考えられる。

 ロシアは当初、アムール工場で生産するヘリウムを、日本を含む東アジア各国に販売することを想定していた。東アジアでは、半導体などの電子産業、医療などでの確実な需要が見込めたからである。

 そのために、ウラジオストクに液化ヘリウムを船積みするハブも形成した。しかし、くだんの爆発事故で生産立ち上げが遅延したため、ロシアのヘリウムは現時点で、当初想定したほどの量はまだ国際市場に出ていないと言われている。

 こうした事情を踏まえると、ロシアが中長期的に世界を代表するヘリウム供給源となる可能性はあるにしても、短期的に中東危機による供給減を補うのは容易ではないと見るのが、妥当であろう。ロシアが世界のヘリウム資源の4分の1を握っていると聞くと、何やら有望な代替供給国として飛び付きたくなるが、実際にはロシアは現状で潤沢な供給余力を有しているわけではない。

 日本としては、米国などからの追加調達、用途の優先順位付け、回収・再利用の拡大といった地道な対応を積み重ねていくしかないだろう。

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