また、「アメリカの価値観を低下させる」ような展示には、予算の支出が禁止されると書かれている。これは厳しい措置である。なぜならスミソニアンの年間10億ドルを超す巨額な予算の約6割が連邦からの補助で賄われているからである。批判的な人々は、これは白人優位主義の価値観でスミソニアンを染め上げることだと嘆いている。
DEIの推進を終わらせる動き
この大統領令はスミソニアンへの攻撃に留まらない。2020年にジョージ・フロイド氏が白人警官に殺害されたことをきっかけに盛り上がった南軍関係者の銅像などの記念物の撤去に関して、20年1月1日以後に撤去された記念物の再検討を内務長官に指示する内容も含まれていた。これは実質的には、奴隷制擁護を旗頭として南北戦争を戦った南軍の将軍など、これまで撤去された銅像や記念碑を元に戻すことを意味している。
しかも、その作業を26年7月4日までに終えよ、というのである。これは独立宣言署名から250周年の記念日にあたり、その記念日を「正しい歴史観」で祝うためである。
このような日が来ることは、トランプ大統領が就任時にバイデン政権の定めたDEI(多様性・公平性・包括性)の推進を終了させる大統領令に署名した時から半ば予想はされていた。
一例を挙げればホワイトハウスの近く、ロナルド・レーガン空港に着陸しようとした旅客機が軍のヘリコプターと衝突して墜落すると、トランプ大統領は、連邦航空局が管制官にDEI推進政策のために障碍者を積極的に雇用しているせいだと示唆した。さらに、バイデン政権の運輸長官であったピート・ブティジェッジを批判し、DEIを推進させて運輸省を破壊したとも述べた。
ブティジェッジ元長官は、自分が長官の時はそのような事故は起きておらず、むしろ、新政権になってから連邦公務員が大量解雇されたせいで空の安全は揺らいでいるとすぐさまやり返した。ブティジェッジは、自分がゲイであることを公にしており、トランプのブティジェッジ批判には、多様性推進のおかげで彼が要職につけたというほのめかしがあるようにも見えた。
目に見えた物理的変化もあった。首都ワシントンのホワイトハウスにほど近い通りの一角は、20年の運動の盛り上がりを受けて「ブラック・ライブズ・マター広場」と名付けられ、路面には黄色で巨大にブラック・ライブズ・マターと大書されていた。それに対し、トランプ第二次政権成立後、トランプ派の下院議員が、改称しなければワシントンDCに対する連邦補助金を凍結するという法案を提出して圧力をかけた。
ワシントンの市長はやむを得ず、路面の黄色い文字を路面ごとはがしとる工事を3月10日から開始し、行きかう人が、ドリルで路面をはがしとる作業を不安げに見つめていた。
