2024年5月15日(水)

Wedge REPORT

2023年8月30日

 夏休み初日である2023年7月21日、福岡県宮若市の犬鳴川で川遊びをしていた小学6年の女児3人が亡くなるという痛ましい水難事故が起きた。このような事故で未来ある子ども達の尊い命がある日突然奪われたことは本当に悔やまれる。保護者の方の心痛は同じ子供をもつ親としても計り知れない。まずは何より亡くなった児童達のご冥福を心からお祈りしたい。

 翌日学校はこの事故について保護者説明会を開催した。保護者説明会では在校生の心のケアのため全6年生の家庭訪問、全校児童を対象「心のアンケート」の実施、必要に応じてスクールカウンセラーの活用などの説明があったという。また危険な遊びをしている子どもには注意してほしいと地域との連携も訴えたとのことである。

(jittawit.21/gettyimages)

 通常はそこまでの場合が多いが、今回学校はこの他に報道機関向けの会見を開いている。その様子は多くのメディアが取り上げ、ニュース動画でも事故の状況を説明する校長の姿が流れている。

 校長経験者として自校の児童生徒が亡くなることに校長がどれほど責任を痛感し辛いことか想像に難くない。筆者自身、12年間の管理職経験の中では死亡事故こそ無かったが、思いも寄らぬ事案は多々経験してきており、そのたびに予防策として本当はもっとやれることがあったのではないかと自問自答を繰り返してきた。

 一報を聞いてからの慌ただしさも想像できる。おそらく弔問して亡くなった児童の冥福を祈るのも束の間、児童達への心のケア、二度と同様の事故を起こさないための対策、保護者への説明や協力依頼、説明会準備、報告書等々学校がやらなければならないことは沢山ある。その上にさらにマスコミ対応まで入ったのであるから職員は夜も眠れなかったに違いない。

学校に責任はあったのか?

 この会見のニュースが流れるとコメントが多数寄せられた。児童の死を嘆き悲しみ人ごとではないというコメントが多い中で「なぜ学校が会見を開く?」という疑問も多く寄せられた。誰もがこの事故を悲しむ一方、学校がメディア対象に会見を開いたことには多くの人が違和感をもったようである。

 事故の状況について、水難学者、工学者である長岡技術科学大学大学院教授の斎藤秀俊氏によれば、典型的な「深みにはまった」事故だそうである。構造物である可動堰が閉じられて水位が上がって、急な深みに気がつかぬままトラップにつかまるように沈水したと推測されている。今回の事故のように人工構造物により隠れため池となっている河川で事故が発生した事例は他にもあるようで、そのためかこの事故は人災だという声もある。

 筆者のような素人には判断しかねるが、好奇心旺盛な子ども達が近寄ること等を想定して、人がこの場に近づけないような手立ては打てなかったのかと思う。地元の方々の思いも同じらしく、その後、市や河川事務所が中心となって「宮若市水難事故防止協議会」が新たに設立され、悲惨な水難事故を繰り返さないための取り組みが進められているという。

 とすれば、そこで再度疑問が出てくる。

 「なぜ市や河川事務所でなく学校が報道向けの会見を開かねばならなかったのか」


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