日本は高等教育の無償化へと舵を切りつつある。この6月に閣議決定した「異次元の少子化対策」の具体策をまとめた「こども未来戦略方針」では、「高等教育費の負担軽減」を掲げ、授業料の減免や給付型奨学金の拡充、授業料後払い制度の検討などを盛り込んでいる。しかし、この議論は、今後大学教育は誰のためにどのようなものであるべきなのか、という議論との接続が十分に行われない中で進んでいるように感じられる。
日本社会における大学教育はどのようにあるべきなのか。一つの事例としてフランスの大学をここでは紹介したい。フランスで大学とは、高等教育機関の中でも非常に大衆化した教育機関であり、全入時代を迎えた日本の大学を再考する際の材料となり得るからだ。
税制度をはじめ社会の制度設計が大きく異なる国との間で学費について単純な比較はできない。しかし、他国の事例を材料に、大学という教育機関がどのような理念で社会の中で機能しているのか、大学教育の社会的意義について考えてみたい。そして、大学進学は誰のためか、進学の受益者は誰なのか、無償化の議論に一つの材料を投じたい。
多様な学生受け入れ機関として共通するフランスと日本の大学
まずは、フランスの高等教育制度を見ていきたい。これは複雑性が特徴とも言えるほど多様な機関があり、限られた紙面でその全容を説明するのは容易ではないが、大きく選抜制と非選抜制の二つに分けることができる。
選抜制は短期(2年または3年)の課程から、5年課程など多様な課程があり、管理職養成、技術者養成など多様なレベルの職業訓練が行われている。入学時の選抜性の度合いもさまざまで、非常に厳しい試験が課されるものもある。
一方、非選抜制に属されるのが大学である。大学は、高等学校修了資格であるバカロレア資格を取得している者であれば誰でもほぼ無選抜で登録できる(2018年度より法的には書類選考が可能となっている)。伝統的に職業人養成を大学内で行っている法・医学部のほか、全ての学問研究に基づいた学部・専攻が設置されている。
中等教育の大衆化政策を受け1970年代から90年代にかけ大きく上昇した一世代あたりのバカロレアの取得者は近年約8割で推移しており、このうち約8割が高等教育機関に登録する。高等教育機関に登録する学生の6割弱が大学へと進む。残りの4割はSTS(上級技手養成短期高等教育課程)やCPGE(エリート養成校であるグランゼコールの選抜入試に向けた準備級)を含むさまざまな高等教育機関へ進学する。バカロレアには普通・技術・職業の3種があり、どれを取得していても大学は進学可能だが、それぞれ進学先や進学率は大きく異なる。