2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2023年8月9日

 大学はほぼ無選抜の最大規模の学生受入れ機関であり、集まる学生の質は多様である。大衆化した高等教育機関として全入時代を迎えた日本の大学の役割について考える一つの比較対象となる。

高等教育も国の義務とするフランス

 フランスでは、大学は全て国立である。大学は、高等教育省の管轄下にあり、国家免状を付与する権限がある。

 フランス共和国憲法の前文では、国は全国民に平等な教育機会を保障することとあわせて、すべての教育段階の無償かつライック(非宗教的)な公教育の提供を国の義務と定められている。義務教育同様、高等教育も無償と定められているのである。

 大学の登録料は年間あたり学士課程170ユーロ、修士課程243ユーロ、博士課程380ユーロで、日本と比べると桁違いに少額だ。親の収入等の社会的基準により段階的に減免・完全免除の制度もある。

 学費が無償である上に、学生には奨学金が支給される(支給、とは貸与ではなく給付である)。学費の免除と同様、学力とは関係のない家庭の収入や大学と居住地の距離などを主な基準として支給額が決定される。

 支給額は0から7まで8段階に分かれており、年1745ユーロから7602ユーロと幅がある。2021~22年度実績で72万人の学生(大学外も含む)が奨学生であり、これは全学生の4割弱に当たる。

大学進学は誰のためか

 ではなぜ大学は無償なのだろうか。1960年代、日本と同じく教育の大衆化が始まって以降、大学の使命についての法律内での言及の変化に焦点を当てて述べたい。

 1968年の五月革命を経て制定された高等教育基本法では、学習の機会を拡大、機会均等とすることや、教育内容の多様化がうたわれる。その後84年の高等教育法では、これまでの大学の学術的・文化的役割に加え、職業専門性がうたわれ、学生の就職が明確に大学のミッションとして言及された。大衆化し、エリート型ではなくなった大学が、多様な学生、社会、経済界の要求に応えることが求められている。

 欧州は資格社会である。フランスではCÉREQ(資格調査研究所)の追跡調査からも、雇用安定率と高等教育資格取得率の相関は明らかにされているが、欧州連合(EU)レベルでも若者の高等教育による資格取得率の向上が共通の目標として目指されている。

 フランスでも、学生の高等教育資格取得が教育政策の中で重点目標とされてきた。2007年には大規模な予算措置が取られ、多様な学生支援措置がおかれた。近年では、18年に「学生の進路選択と成功に関する法」が置かれ、高校から大学への接続や初年次の学生支援が重点的に進められている。


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