さらにこの女性の30代の夫に、少年野球の問題点や改善してほしいところを問うと、「自分のチームだけでなく、他のチームの練習でも目にしますが、子どもたちが指導者の声に萎縮することがあります。監督やコーチの声が大きいチームほど、まわりが何も言えない空気になりますよね。もったいないと思います」
ここで指導者による怒号、怒声などの理不尽な「旧態依然として指導スタイル」が露呈してきた。
グランド内外で夫婦にさまざまな役割
インタビューに応じてくれた前出の夫婦には2人の子供がいて、ともに野球をしている。夫婦に野球経験はないが、テレビや球場での野球観戦は共通の趣味だった。
「上の子が赤ちゃんのときから、テレビでは野球中継が流れていました」。野球好きの夫が幼少の長男と近所の公園でキャッチボールをしていると、少年野球チームに入っている近所のお兄ちゃんが声をかけてくれた。長男と体験にいき、小学1年春にはチームに入った。
夫婦は都内在住でフルタイムの共働きで生活する。近所に家事や育児をサポートしてくれる両親はいない。
妻は「少年野球を始めると、お母さんが大変になるよ、とは聞いていました」と振り返る。実際、どこの少年野球チームも練習は週末と祝日で、試合が入ると1日潰れることもある。
夫の主な役割は、練習のサポートだ。「パパコーチ」「見守り隊」。チームによって、呼び方はさまざまだが、経験者はノックを打ったり、打撃投手を務めたりして練習を手伝い、未経験の保護者はせわしなく球拾いにいそしむ。保護者の練習参加を強制とうたうチームは耳にしないが、他の保護者が手伝っているのに、我が家は子どもだけが参加しているという状況が心苦しくなる。
お母さんたちにはグラウンド外でも、決められた役割がある。
高学年から選ぶ父母代表のほか、低学年の代表、会計、遠征時に保護者が持つ車に誰が乗るかを決める「配車係」、練習や試合を行うためのグラウンドを確保するための学校への申請など……。情報はLINEグループで共有する。6年の父母代表が最も重責とされ、5年までに他の役割に立候補して、代表を避ける人もいるという。
この女性は「低学年代表としてグループLINEに連絡事項を送るとき、間違いがないか、いつもドキドキします。夫婦で確認して送ったり……。それでも、うちのチームは、私が仕事をしていることをわかっているので、連絡が多少遅れることは皆さんが理解してくれています」と感謝する。
少年野球が〝特殊な〟環境を生む要因
子どもたちの習い事はスイミングでも、英会話でも、例えばフィットネスジムが運営するサッカーや体操などのスポーツ教室でも、保護者がここまで関与することはない。では、なぜ、少年野球は特殊なのか。
一つには、練習メニューの多さがある。ウオーミングアップの後は、キャッチボールに始まり、打撃練習、守備のノック、走塁など、「走・攻・守」で身につけることが多い。
小さなボールを扱う練習では、子どもたちの送球がそれたり、打撃練習で大きな当たりを打ったりすると、ボールはグラウンドに散らばってしまう。すぐに拾わないと、グラウンド内の芝などに入り混んで練習後にボール見つけ出すのも大変だ。練習で打つボールはたくさんあっても、その都度、保護者がボールを拾わないとすぐに足りなくなって、練習が回らなくなる。
子どもたちが球拾いをすればいいという声もあるだろうが、たとえば打撃練習の時間が30分あっても、子どもが10人いたら一人3分しかない。限られた時間を練習に使わせてあげたい〝親心〟が働く。