2024年12月22日(日)

オモロイ社長、オモロイ会社

2018年1月25日

首相官邸の「『日本再興戦略2016』-第4次産業革命に向けてー」によれば下記のよう記述があります。

人口減少と少子高齢化が進む中、経済成長を実現していくためには、新築住宅のみならず新たな住宅市場を開拓・育成する必要がある。しかし、 我が国では、住宅購入をゴールとする考えや、購入した住宅が必ずしも適切に維持・管理されていないこと等により、既存住宅流通・リフォーム市場の活性化が図られていない。

そこで、リフォーム等による良質な住宅ストックが数十年を経ても資産として評価され、次世代へ流通していく「新たな住宅循環システム」への転換を図り、既存住宅流通・リフォーム市場を形成・活性化していく。

また、空き家の増加を抑制するため、「新たな住宅循環システム」の構築と併せ、建替え等による新陳代謝を促していくとともに、IoT 技術等を活用した次世代住宅の普及を促進することで、新たな関連産業の成長を図る。 さらに、若年・子育て世帯の住居費負担を軽減し、安心して子育て等に 取り組める環境を整備するために、空き家を含めた既存住宅の活用を推進 していく。

《KPI》「2025 年までに既存住宅流通の市場規模を8兆円に倍増する (2010年4兆円)。※可能な限り2020年までに達成を目指す」 ⇒2013 年:4兆円

《KPI》「2025 年までにリフォームの市場規模を 12 兆円に倍増する。 (2010年6兆円)。※可能な限り2020年までに達成を目指す」 ⇒2013 年:7兆円

 この「既存住宅流通」と「リフォーム」を主軸とした事業を展開している企業が大阪にあります。セカイエ株式会社代表の高間舘さんに話を伺いました。

日本再興戦略に掲げられた住宅市場活性化が事業モデル

 この2つの市場に、インターネットの力を活用して早い段階から参入しているセカイエ社。リフォーム市場には「リノコ」、既存住宅流通には「イエイ」というサイトで展開しています。売上規模はおおよそ40億円程度、社員数は67名。まず、その事業モデルについて解説します。

(Dynamic Graphics/iStock)

 インターネットを介してリフォームを気軽に依頼できるサービスとして、2013年に立ち上げられました。分かりにくい業界でトラブルが多く散見される住宅リフォーム業界に、「商品+工事+保証」をコミコミの定額で追加料金が一切不要のサービスを実現しています。

 リノコは、サイト上で見積りから現調・工事の日程調整、契約・支払までを済ませることができます。見積もりシミュレーション機能を提供しており、自らが希望する工事をクリックしていくことで諸経費も含めた工事総額が申し込む前に分かります。顧客は電話、またはサイト上のフォームから申し込み、施工は各エリアで提携している全国の施工店や職人が行います。工事を行う施工店は全て点数化されており、エリア毎の評価の高い施工店から優先的に工事を担当するシステムになっています。

 施工店は現地調査と工事だけに集中すればよく、顧客とのやり取りは基本的にリノコのリフォームコンサルタントが電話とWEBで行います。必要な建材は都度、同社と契約しているメーカーから現地へ送付しているため、仕入れの負担もありません。顧客だけでなくリフォーム施工業者にもメリットを享受出来るビジネスモデルを構築しており、加盟企業数は900社ほどに拡大しています。

 今までリフォーム業者に「会ってみないと、行ってみないとわからない」が当たり前だった業界において、業界初でリフォームの金額をポッキリ価格でWeb上で分かるようにし、かつWeb上で契約締結まで完結するようにしました。顧客管理とコールセンターシステムを融合した独自の管理システムを構築、自動で顧客と施工店の日程を調整する仕組みを作るなど少額案件を効率よく回すオペレーションを確立しています。

 エンドユーザーからのリフォーム業界のイメージは決してクリーンではありませんが、その中でリノコは顧客が安心して活用できるプラットフォームを構築しています。

 不動産一括査定サイトの「イエイ」は、査定額を知りたいというユーザーに無料で最大6社を紹介し、顧客自身で金額を比較した上で依頼先を決めることの出来るサービスです。今までは、顧客自身が各企業に問い合わせてやり取りしなければなりませんでしたが、同サイトに一括して依頼することで手間をかけず売却金額の査定を行うことが出来ます。リフォーム同様にわかりにくく、業者の言い値になることもしばしばの不動産売却において、複数社に査定することで結果的により高額の取引に繋げられる可能性が高まることも特徴の一つです。

 2008年のサービス開始から10年が経過し、大京、スターツ、大成有楽不動産、住友林業、センチュリー21等々、主要な大手不動産企業から地元に根付いた不動産企業まで1200社が加盟。サイト利用者は年間400万人を超える規模に拡大し、不動産売却の専門サイトでは利用者数No.1となっています。

 また、業界でも圧倒的な顧客数を誇っており、推測の域を出ないが、送客先で成約した物件売買の金額は毎月100億を超えるものとみられます。

 いずれの事業も急激に拡大していること、さらに2つの事業のシナジーも活用しながら、中古住宅という国が推進していくホットな領域を明確に意識して他社に先駆けて展開しているところが注目に値すると感じた次第です。高間舘さんが「世の中に唯一のインターネットサービスを通じて一歩先の”セカイ”をつくる」と語る、事業についての考え方に通じると思いました。

 この事業の急成長を、2度のM&Aを経験することで実現しているのが高間舘さんの稀有なところです。2つ目の事業モデルである「イエイ」に関しては、自社で一から立ち上げたわけではなく、M&Aにより手にしたものでした。

M&Aによって得たこと

 2014年8月、ゲーム事業を主力とするグリー株式会社が、新規事業として「リノコ」と同様の事業をスタート。そこから3カ月後の11月にそのグリー社からM&Aの打診があったそうで、競合事業を営んでいる企業へのM&Aとなるため散々悩んだ末に、応じることに。

 その理由は グリー社が持つ資金力と人材の登用の可能性、マーケットへの規模拡大を事業本位で考えたすえに、スピード、時間を優先し、グリー社の100%子会社となることを決断しました。事業をスタートして1年半で、従業員は20名弱、売上は6億円程度に成長していたそうです。15年1月、子会社化により、事業への投資も拡大、優秀な人材もグリー社から来ることで、一年後に売上は12億円と倍増したそうです。

 親会社の人材・資金力を投じてサービスの開発を進めていた16年12月、グリーとして「事業の選択と集中するため3カ月で新規事業から撤退する」方針が決まり、新規事業領域は売却もしくは停止することに。長ければ1年は超えるM&Aの世界で3カ月、年末年始が間にあることを考えれば実質2カ月で今後の展開を決めなければならい状況下、しかも親会社が上場していることもあり、大っぴらに相談もできない話。

 髙間舘さんは信頼のおける経営者に相談をしながら、スピードを伴ってこれは! という経営者に直接話しに行ったそうです。それが、不動産売却一括査定サイト「イエイ」を運営する株式会社Qの代表西原さんだったとのこと。丁度、西原さんが証券会社系の投資会社に事業を売却しており、代表者の後任を探している際に髙間舘さんが相談に行ったため、セカイエとQを合併して「リノコ」と「イエイ」の2つの事業を運営する企業にするという話が持ち上がりました。

 元々2つの事業の対象市場が近いこともあり、1月の中旬には大枠が決まったそうで、凡そ2カ月弱のスピード経営統合が成立しました。そこには、時間がない中でM&Aを実行しなければならないため、グリー社の条件面での譲歩・協力も大きかったと髙間舘さんは話します。

 この2度のM&Aを経験された髙間舘さん得たことについてお聞きしました。2度のM&Aからそれぞれ学びや貴重な経験があったと話します。

 1度目はグリーという大手IT企業とM&Aすることで、事業の立ち上げスピードを早めようというもの。ベンチャーキャピタルも含め複数の株主がいるため合意形成に時間を要しましたが、最終的に全員が納得する形でまとめることができました。ベンチャーとしては大きな決断でしたが、この2年間で大きくビジネスは進捗しましたし、サービスの質としても以前に比べ格段に良くなりました。

 2度目は逆にそのグリーから離れるというもので、とにかく3カ月という短期間で話をまとめなければならないのがネックとなりました。その短い時間の中で、どの選択肢を採るのが良いのか相当悩まれたそうです。もうグリーに売却した時点でオーナーシップは無いわけですから、そのタイミングで離れて新しい会社を立ち上げようかとも考えました。その中でセカイエを選んで働いてくれている社員を放っていけないという気持ち、すごいタイミングで頂いたイエイとのご縁。この形が実現できるのであればと、ステークホルダーの理解・協力を得てスピーディに話をまとめました。

 セカイエは結果的にM&Aという資本政策を選択して、特殊な形ではありましたが2度のM&Aも経験することになりました。会社を拡大していく中でいろいろな選択肢がありますが、事業が最速で立ち上がる選択肢を決断するべきだということを実感されたそうです。

 M&Aで難しいのは人材および組織の統合だと話す高間舘さん。セカイエに集うメンバーは、起業当時からいるメンバー、グリーを辞めてまで参画したメンバー、イエイ事業からの合流メンバーと本当に様々です。その組織の統合には腐心をしてきたそうです。個々人の能力差や考え方の違いもある中、M&Aによる組織の変化により辞めるメンバーもいましたがその数はごくわずかだったそうです。それは各人社員としっかり向き合うこと、そして個々人の仕事のKPIを明確にし見える化することで納得して働ける環境を作ったこと。その上で、社内外でのイベントやクラブ活動を通して職場の雰囲気づくりを積極的に行っています。フットサル部、カラオケ部、ゴルフ部、バンド活動、オフロードバイク、家族同伴でのバーベキュー、またファミリー休暇の導入、ウェルカムランチ、毎月のチームビルディング等々、個人と組織へのアプローチを継続的に取り組んでいるそうです。

 こうして事業・組織の統合もうまくいき、この貴重な経験を次の展開では「買収する側」として仕掛けていくことを考えています。既に予定している事業買収や会社の買収もあり、買収されたからこそ解る経験を今度は買収する側としてその経験を活かせると感じています。現在は経営統合も順調に進み、売上40億超の事業体となっており、近い将来上場を目指すと話します。


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