2024年12月2日(月)

Wedge REPORT

2023年11月23日

 今から筆者が述べる内容は、必ずしも科学的知見に裏付けられたものではない。長年の経験と研究者やハンターなどの関係者から得た知識をもとにしたものであることをあらかじめお断りしておく。

難しい生息個体数調査

 今秋はクマ、特に本州に生息するツキノワグマによる人への加害が急増して連日報道されている。秋はキノコ採りなどで山中で人がクマと遭遇する機会が増えるのだが、今年はクマの行動範囲が山間部から市街地へと広がり、何の覚悟もない市民が不意打ちされるケースが多くなった。

 実際、クマを目前にすると体力、敏捷さ、スピードに圧倒され、戦慄する。方やくまモンなどのキャラクターに採用されて、愛らしい動物の代表である。このギャップが国民を保護派と駆除派に二分して、クマ対策をめぐって激論が交わされるようになった。テレビなどでの専門家や研究者の話を聞いていても、両派に挟まれて旗幟を鮮明にすることが憚られて、結論がはっきりしていないことが多い。

 それもそのはず、野生動物については不明なことが多い。特にツキノワグマについては、生息している個体数の推定も困難なのである。環境省のホームページを見ても、ニホンジカやイノシシについては、推定個体数が時系列で示されているが、クマについては生息分布域が示されているにすぎない。

 ニホンジカやイノシシでは推定された個体数の時系列変化を基礎として、農業被害対策として目標を定めた個体数調整(駆除・捕獲)が実施されているが、クマの場合は基礎資料がないために科学的に適正と思われる生息数を想定できず、個体数調整を打ち出せない状況にあるのだろう。

 今年の騒ぎを受けて、今後は個体数の推定が進んでいくだろうが、クマの行動範囲の拡大が容易に予想されていたにも関わらずこのような基礎的調査を怠って、行政側の対策は完全に後手に回った。

興味深いクマの性質

 クマと聞いて第一感、狂暴と思う人、可愛いと感じる人が拮抗しているようだが、筆者は非常に賢い動物だと思う。

 前に当サイトにアップした「間伐から見る日本の森林・林業の世界」の第4回で「クマ剥ぎ」について書いた。クマ剥ぎとは、ツキノワグマによる造林木の樹皮の食害で、5、6月の樹液の流動期に樹皮を剥いでその下の甘皮を歯でこそいで食べることだ。

写真 1 クマ剥ぎにあった人工林(筆者提供)

 せっかく間伐をしてこれからというときに、クマによって樹皮を食害されると、マグロで言えばトロに当たる造林木の根元に近い部分の品質が悪化し、酷い時には枯れてしまう。それでクマは、森林経営者にとっては憎き敵なのである。


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