花粉症対策で一番問題なのは、国土保全上のリスクが増大することである。これは皆伐という伐採方法に起因する。
森林は林地に根系を張り巡らせることによって、表土の流出を抑えている。ところがスギやヒノキの針葉樹林では、皆伐によって林木が失われると、根株も死んで表土の緊縛する力を失う。ちなみに広葉樹では伐根から芽が出る樹木も多く、根株は生きて緊縛力をある程度維持できる。
針葉樹の根株は腐朽が進むにつれて緊縛力が落ちてくるが、後継樹の根系が発達してくれば緊縛力が回復してくるので、皆伐後15年ぐらいが1番林地の緊縛力が弱まるという研究がある。ところが筆者の経験では、皆伐後5年もしないうちに表層崩壊が多発して、研究結果と違う状況が見られた。それは架線集材法に問題があったからだ。
架線集材とは、写真1のように空中に張ったワイヤーロープで伐倒木を吊り上げて林道わきまで集める作業方法である。右上の滑車のついたキャレッジが伐倒木を吊り上げ、主索(ワイヤーロープ)上を移動して林道上に降ろす仕組みだが、伐倒木が主索の直下にあれば林地は傷まない。
ところが、多くは横取りといって伐倒木を主索直下まで引っぱり出す作業が必要になる。その時に引きずられた伐倒木が皆伐地に残された根株をそれこそ根こそぎ吹っ飛ばす。また林地の表面を走っている作業索も根株に当たって引き抜く。
したがって、架線集材をやった後の林地は傷だらけで、根株が残っていないことが多い。林地の緊縛力が弱まって、大雨が降るとすぐに表土が流れ落ちるのである。
最近は、架線集材作業が少なくなって、作業道を利用した車両系林業機械による集材作業がほとんどである。作業道に限らず林地に開設される道路は、表層に張り巡らされた樹根のネットを寸断して緊縛力を弱める。
また斜面上部から流れ落ちてくる雨水を道路が受け止めてしまう。道路にはふつうは側溝が設けられていて、雨水はここに流れ込んでまとめて沢や谷に排水されるが、簡易な仮設構造物である作業道にはほとんど側溝はない。山側の斜面を流れてきた雨水は路面に落ちて、道に沿って流れ下りながら、水量を増していく。道が川のようになって、ついには路側の弱いところから集中的に流れ落ち、林地崩壊を起こす(写真2)。
また、山側の切土(きりど・斜面を削り地面を平らにする)面が高いと、それそのものが斜面崩壊の原因となる(写真3)。
林業労働者不足で生産性を上げようと機械を大型化すれば、作業道の幅員を広げる必要がある。そうなるとますます切土量が多く、切土面も高くなって、さらに崩壊のリスクが増す。