一貫性に欠けた矛盾だらけの森林・林業行政
皆伐は、長期間の造林投資を回収する営利行為だから、本来的に補助事業にふさわしくない。それが分かっているから、今まで林野庁は皆伐補助金を頑なに否定してきた。Wedge6月号の特集「瀕死の林業 再生のカギは成長よりも持続性」における編集部からのインタビューで、林野庁幹部は、「間伐のための補助金はあるが、皆伐に対する補助金はない」と述べ、また「需要を無視した伐採が行われることは好ましくない」とも言っている。産業政策としては至極当然の見解である。
しかし、実は皆伐補助は林野庁の悲願だったのである。花粉症対策はそれを実現する千載一遇のチャンスになった。花粉症対策を大義名分に、ついこの前の見解を180度覆して皆伐補助金を実現しようとしている。
少花粉スギの拡大造林もそうである。森林の生物多様性を高らかに掲げているのに、モノカルチャーに転向して臆面もない。
何でこのような政策転換が容易くできるのか。それが予算=金の魔力である。中央官庁の組織の論理は予算の多寡なのである。1円でも予算の増える政策を至上としていて、国民の方など向いていない。
花粉症の方には誠に申し訳ないが、このような林野庁の対策では、せっかく育った森林を無為に破壊し、国土保全をないがしろにして国民の生命・財産を危険にさらし、瀕死の林業と山村を滅ぼしかねない。花粉症対策としては、ぜひ林業以外のアプローチを考えてもらいたい。
まだまだ成長を続ける日本の森林は、地球温暖化による異常気象下では国土保全の要であり、不穏な世界情勢の中では戦略資材としての価値を増す。今こそ、日本の国土の背骨をなす森林こそが、日本人の豊かな心を育んできたことを再認識すべきであろう。
全体を俯瞰した将来ビジョンを描けない行政
花粉症対策という大義名分、錦の御旗に沿った概算要求PR版は上手にできていても、どこか空々しく信頼できないのは、これまで何十年も林野行政がたどってきた施策の焼き直しをうまくお化粧しているだけだからだ。幹部クラスに「こんなの50年前と同じじゃない」かと指摘する人はいないのか。
専門性が進み過ぎて狭い了見でしか思考できない人材ばかりだから、過去を断ち切る大英断もできず、将来ビジョンも描けないのだ。林業という一産業の振興だけでなく、森林全体を見渡して全国民のため何が望まれ、国民のかけがえのない財産をどう生かすか、予算額の確保ではなく有効な使途を熟慮する必要がある。林野庁内だけでなく、広く学会、業界、現場、国民有志からの意見を聞き、森林・林業界の全力を挙げて発想の転換を図るべきだ。
そうは言っても難しいだろうが、せめて予算を注ぎ込んで、森林を傷つけるようなことだけは止めてほしい。