2024年5月20日(月)

Wedge REPORT

2023年9月25日

 温暖化による気象の変化は日本でも予想をはるかに超える豪雨を引き起こす。明日は我が身なのだ。

 ダムや堤防などの防災施設が万能なわけではない。国土の3分の2を覆う森林の価値を今こそ再認識して、大洪水に備える必要がある。大都市の下町がリビアの被災地のようにならないために、あらゆる防御手段を施さなければならない。

 そのためにも森林崩壊の原因となる皆伐はこの際禁止するぐらいの大英断が必要であろう。スギ林の皆伐を推進する花粉症対策と国土保全とどちらを優先するかは、重い問題ではあるが結論は明らかなのである。

幻想に酔いしれた概算要求

 最後に24年度概算要求について述べてみよう。

 花粉症対策という錦の御旗の下に、林野庁のあらゆるセクトの施策が結集されていて実に見事である。年寄の常で、今の若い者はとすぐ言いたくなるのだが、このような見事なまとめ方は筆者らの現役時代にはできなった。

 だがこれは幻想である。実現不可能なものをいくら集めたところで時間と税金の無駄である。これで花粉症が減るのか? 患者の数はともかく、花粉の量がどれだけ減るのかも定かではない。

 不可能な「スギ人工林の伐採・植替え等の加速化」、「スギ需要拡大」、「林業の生産性向上及び労働力の確保」、自然環境へのリスクの高い「花粉の少ない苗木の生産拡大」、林地保全への負荷の大きい「路網の整備・機能強化」などをしてみたところで、実際には、国土保全機能の低下、木材価格の暴落、流通機構の破壊、森林所有者・経営者の意欲の消滅、山村の外国人化などを多くのマイナス因子を招来するだけである。

硬直した発想と費用対効果の欠如

 終戦後から高度経済成長期にかけて最後は批判を浴びながらも行われ続けた人工造林は曲がりなりにも成林して、外見上は緑の国土の形成と国土保全の役割を果たせるようになった。人工林の現況は、帳簿上は33億立法メートル(㎥)ということだが、実際はこの1.5倍あるとも言われている。

 反面、安価に輸入できる外国産材との価格競争に負けて、日本の森林は木材資源としての価値を失った。現在の木材需要の主力は建築資材用の並材であって、薄利多売の世界である。

 日本の山岳地形では並材向けの造林を行っても赤字にしかならない。屋久杉や天然秋田杉、天然木曽桧のような木目の詰まった高品質材なら話は別である。

 したがって、せっかくここまで育てた人工林をここで無為に皆伐しないで、天然林材を目指して保残すべきである。同時に国土保全と緑の環境も維持しながら、国民経済に寄与すべきである。防災機能などは評価できないほど高いのだから。

 しかるに儲けもないのに皆伐して、将来もないのにまた植えて、延々と硬直的な発想のもとに森林・林業政策が続けられているのである。国や都道府県の行政官だけでなく、学者、研究者、業界、現場で働く人たち、みんな早く覚醒して、この憂うべき現状を回生してもらいたい。


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