4月20日、東京地裁で東京都在住者の所有する宮崎県宮崎市の山林が伐採業者により無断でスギ69本を伐採された事件の公判が開かれた。同じ業者に自身の山林を7年前に盗伐された宮崎県盗伐被害者の会の海老原裕美会長は、この公判に出廷し宮崎県で起きている盗伐の実態を陳述した。
1000世帯を超す
盗伐被害者
それによると、宮崎県の盗伐被害者は1000世帯を超えており、膨大な樹木が違法に伐られ持ち去られているが、被害者の多くは高齢者や県外在住者で、発覚しづらい相手を狙ってブローカーが暗躍しているという。また盗んだ木材を安く市場に出すため、木材価格が値崩れしているうえに、伐採跡地は放置され土砂崩れなどが発生していると訴えた。
「ブローカーは小面積の伐採届を偽造して、自治体に提出する。私の場合はすでに亡くなった父の名で伐採届が出された。受理されると、届け出の何倍、何十倍もの山林を伐る。木材市場も伐採届の面積と合わない木材量なのに取り扱う。発覚したら土地の境界線を誤ったと主張して、わずかな賠償金で済ませようとする」(海老原さん)
今や林業で盗伐は珍しくないようだ。海老原さんが被害者の会を立ち上げると、鹿児島、熊本、京都、岐阜、栃木、北海道……と全国から被害の声が届くという。
問題は違法な伐採だけではない。合法的な伐採であっても、森林経営計画書に実施すると記していた伐採跡地の再造林が進んでいない。
林野庁も皆伐地の3割程度しか植えられていないことを認めている。「伐ったら植える」という林業の基本が守られていないのだ。
国産木材自給率が
大幅に伸びた理由
このところ林野庁は「林業の成長産業化」を掲げている。そのため木材生産を増やす政策が推進されて、2002年に18・8%まで落ちていた木材自給率は、21年に41・1%と2倍以上になった。しかし増産要請が盗伐を誘発しているとされる。
確かに国産材の生産量は、02年の約1692万立方メートルから21年で約3372万立方メートルに増えた。
しかし、木材総需要は、8976万立方メートルから8213万立方メートルへと下落している。つまり木材需要が縮んでいるのだから、経済的に林業が成長しているとは言い難い。
また国産材の用途も変化している。20年前はわずかだった合板用が21年に466万立方㍍もあり、燃料材、つまりバイオマス発電用の木材も約935万立方メートルが計上されている。木材価格が安い合板用や燃料用の割合が増えることで、製材価格も抑えてしまう傾向にある。