2024年4月23日(火)

Wedge REPORT

2023年5月19日

 外材の場合は、商社などが間に入って供給量や品質、そして流通などをしっかり管理している。商品アイテムも豊富だ。また乾燥材は国産材の出荷量の約3割だが、外材は8割以上。ここでも差がつく。

 加えて問題なのは、国産材の場合は山元、伐採業者、木材市場、製材工場、プレカット工場、そして工務店など多くの事業者が関わるにもかかわらず相互に情報が届いていない点だ。必要な木材の種類や量も伝わらず、それぞれのパートで在庫を抱えて見込み生産もする。結果的にロスが出ることも多く、無駄な経費がかさむ。

 そもそも山元は自分の山の木がどこで何に使われているか知らないし、工務店は使う木材の産地もわからない。これでは責任や愛着を持てないだろう。

 また最近は大径木ほど価格が安くなった。太すぎると製材機に入らないと嫌われるのだ。しかし、機械の都合で値下げされるのは長年木を育ててきた身にはたまらないだろう。

 林業家は木を高く売りたいが、製材側は原木を安く仕入れることに腐心する。この利益相反の関係から、両者の間には拭いがたい不信感が生じる。これが林業振興の足を引っ張りがちなのだ。

所有者不明、
境界も不明の山林

 盗伐や過剰伐採、再造林放棄とは正反対の問題もある。「放置林」の増加だ。それは所有者の不明、土地の境界線未画定の問題と深く関わっている。

 山林を相続したものの林業に興味を持たない相続人は、相続の際に山林を登記せず放置しがちだ。しかし未登記の期間が長くなると、相続人が分散して全員の所在がわからなくなる。さらに共有林も多く、小さな山林に名義人が何百人というケースもある。

 加えて地籍調査が進んでいない。

 林地の進捗率は46%(21年度)だが、その多くは国有林なので民有林はさらに低い。明治時代につくられた公図は参考程度にしかならないし、所有者の記憶も「大きな岩があったところ」「境界に〇〇の木を植えておいた」といった目印だ。地図と現場が何㌔メートルもずれていたというケースも少なくない。

 民間の所有者不明土地問題研究会によると、未登記の土地は16年の時点で約410万㌶と九州を上回る面積だった。それが40年には約720万㌶に達し北海道の面積に迫ると推計されている。その多くが山林だ。

 所有者不明、境界線未画定の土地は、実質利用できない。木材生産はおろか建物を建てるのも、道を通すのも不可能になる。山林は放置され、災害を招きかねないのである。

 現在の林業現場で進行しているのは、目先の都合だけで行われる政策と事業ばかりだ。しかし森林、そして林業は少なくても数十年先を見つめて管理するものだろう。さもなければ経営も持続できず、環境保全も不可能だ。

 このような現状に触れると、日本の林業の将来に絶望感を抱くことになってしまうのである。

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瀕死の林業再生へ その処方箋を示そう
本末転倒の林業政策、山を丸裸にする補助金の危うさ

   
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Wedge 2023年6月号より
瀕死の林業
瀕死の林業

「花粉症は多くの国民を悩ませ続けている社会問題(中略)国民に解決に向けた道筋を示したい」

 岸田文雄首相は4月14日に行われた第1回花粉症に関する関係閣僚会議に出席し、こう述べた。スギの伐採加速化も掲げられ、安堵した読者もいたかもしれない。

 だが、日本の林業(林政)はこうした政治発言に左右されてきた歴史と言っても過言ではない。

 国は今、こう考えているようだ。

〈戦後に植林されたスギやヒノキの人工林は伐り時を迎えている。森林資源を活用すれば、林業は成長産業となり、その結果、森林の公益的機能も維持される〉

「林業の成長産業化」路線である。カーボンニュートラルの潮流がこれに拍車をかける。木材利用が推奨され、次々に高層木造建築の施工計画が立ち上がり、木材生産量や自給率など、統計上の数字は年々上昇・改善しているといえる。

 だが、現場の捉え方は全く違う。

 国が金科玉条のごとく「林業の成長産業化」路線を掲げた結果、市場では供給過多の状況が続き、木材価格の低下に歯止めがかからないからだ。その結果、森林所有者である山元には利益が還元されず、伐採跡地の再造林は3割しか進んでいない。今まさに、日本の林業は“瀕死”の状況にある。

 これらを生み出している要因の一つとして、さまざまな形で支給される総額3000億円近くの補助金の活用方法についても今後再検討が必要だろう。補助金獲得が目的化するというモラルハザードが起こりやすいからだ。

 さらに日本は、目先の「成長」を追い求めすぎるあまり、「持続可能な森林管理」の観点からも、世界的な潮流に逆行していると言わざるを得ない。まさに「木を見て森を見ず」の林政ではないか。

 一方で、希望もある。現場を歩くと、森林所有者や森林組合、製材加工業者など、“現場発”の新たな取り組みを始める頼もしい改革者たちの存在があるからだ。

 瀕死の林業、再生へ─。その処方箋を示そう。


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