2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2023年5月19日

 国産材の大きな捌け口として期待する木材輸出は、中国を中心に増加中だ。だが、売れるのは安価な丸太ばかり。中国人バイヤーには「日本の木材は世界一安いから買う」と言われるありさまだ。利益率の高い製材は求められないのである。

 木材利用を増やそうと国は木造建築を推進している。とくに推すのはオフィスや店舗など非住宅用建築物の木造化だ。特にCLT(直交集成板)利用を推進している。だが、補助金で建てられた全国のCLT工場は、どこも閑古鳥が鳴く。現在の年間生産量は1万5000立方メートルで、目標の50万立方メートルに遠く及ばない。CLTが不人気なのは、建築費が鉄筋コンクリート製よりも高いからだ。そこで価格を下げようと、木材価格の下げ圧力が強まる。

 合板、燃料材、輸出、CLT……。いずれも森林所有者である山元への還元が少ない用途のため再造林が進まない。木材利用を推進すればするほどはげ山が増えていく構造となってしまった。

 建築材の需要が減少しているのは、日本全体の人口減少と高齢化が大きな要因である。木造建築が多いのは住宅だが、住宅着工件数はピークの半分以下、約86万戸(22年度)となった。今後50万戸を切るのは確実とされる。しかし、問題はそれだけではない。この40年間、木材価格が下がるたびに、山元の利益を削ることで対応してきた。つまり木材が売れても山元には還元されにくくなっている。

 一昨年、昨年は木材価格が高騰して「ウッドショック」と呼ばれた。これはコロナ禍で米国の木材生産が縮小する中で景気対策のため建設需要が膨らんだことから起きた。日本でも外材輸入が滞った影響から国産材の価格が跳ね上がり、2倍になったところもある。

 ただ値上がりしたのは製材価格だ。原木価格はさほど上がらず、燃料費などコストが高くなったから利益は出づらい。そのうえ大量伐採と作業道の敷設などで傷めつけられた山が増えたという。これでは経営の持続が危ぶまれる。

 ちなみに今年は米国のウッドショックは終息し、木材価格の下落が予想される。それは国産材にも波及するだろう。再び山元へ値下げ圧力が増すかもしれない。

 さらに問題なのは、林業現場での労災発生率が異常に高いことだ。発生度合を表す年千人率は、21年で全産業平均が2.7に対して、林業は24.7と9倍以上だった。これは休業4日以上の結果だから、実際はもっと高いと思われる。安全対策が非常に遅れているのだ。

 国は木材の生産量で林業の成長を計ろうとしている。林業の主体は伐採業者と位置づけたのだ。しかし山元への利益還元に目を向けなければ森づくりが進まない。

(出所)林野庁『森林・林業統計要覧2022』

 そもそも木材産出額より補助金の総額の方が多いとされる林業が「成長産業となった」といえるだろうか。

「国産材は高い」
という嘘

 日本の林業を語る際に、よく登場するのが「安い外材に押されて」衰退したという論調である。しかし、これは根本的に間違っている。なぜなら、1990年代から国産材の方が外材より安くなっているからだ。つまり「安すぎる国産材」こそが問題なのだ。

 ただし国産材が安いのは丸太の状態の値段であり、製材になると外材の方が安いケースも少なくない。ここに日本の林業と木材産業の本質的な問題が隠されている。


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