結局、皆伐という伐採方法そのものよりも、搬出に伴う架線集材や作業道といった必須の設備に起因する林地の脆弱化が問題なのである。
したがって線状降水帯などによる豪雨が頻発している現状で、皆伐地を増やすことは、下流住民の命を危険にさらすことになる。急傾斜地での皆伐は絶対に避けるべきである。
皆伐は豪雨に弱い山を作る
写真4は皆伐後に植栽されて期間が経っていない幼齢造林地である。線状降水帯によって引き起こされた洪水被災地の上流にある。中央を横に蛇行しながら林道か作業道が走っているが、この道から表層崩壊が多数発生しているのがわかる。
この写真を見ると皆伐の悪さが際立つ。周辺の人工林や天然林はほとんど浸食されていない。林野庁は「はげ山」に植えなければいけないと力説するが、植えても根系がネット状に地表を覆うには十数年はかかる。
国土保全上のリスクを冒してまで皆伐する理由がどこにあるのだろう。安い木材価格、効果の定かでない花粉対策、どれも国土保全に優るとは思えない。
写真5は、写真4近くの間伐実行地である。よく見ると作業道が高密度に開設されいるようだが、豪雨による表層崩壊は起きていない。このように幼齢造林地と高齢人工林では災害防止機能にこれほどの差がある。どう見ても安定感が違う。
皆伐施業はこの安定感を0にしてしまう。1950~60年代は日本中の山は皆伐地だらけ、幼齢造林地だらけで各所に崩壊が発生して、人工林施業が山荒しの元凶のように言われてきた。その人工林がようやく成長してやっと災害防止機能を果たせるようになった矢先に、皆伐されて振り出しに戻るのであれば、何ともやりきれない。これまで批判に耐えてきた努力は何だったんだろう。
写真5のように高齢人工林を維持すれば、林木はさらに成長して年輪を重ね、品質も向上し材積も増える。そこで高く売れるものは間伐すればよい。
まず国土保全機能を万全にして、併せて高品質な木材も生産する。この方法が日本の森林管理の基本であると確信する。そうして下流にある村や都市を守ることが、国民経済的にも最良の道である。
北アフリカの砂漠の国リビアで起きた大洪水は2万人以上の犠牲者を出したと言われ、赤茶けた土砂が都市を飲み込み、丈夫なビルを残して街は跡形もない(写真6)。これを決して他所事と見てはいけない。