自宅から徒歩での30分の旅は、地元の新しい友達をつくるチャンスである。といっても、人間の友達ではない。ご近所の「生き物」だ。
都会の「モノ」を器用に利用しながらカワセミは生きている(写真・柳瀬博一)
東京都心に暮らす私の場合、この数年間ですっかり仲良しになったのがカワセミである。
エメラルドグリーンにもサファイアブルーにも輝く翼。オレンジ色のおなか。顔より長い大きなくちばし。名前は知っているし、写真で見たこともある。でも、実物にお目にかかったことはない鳥。多くの人にとってカワセミはそんな存在ではないだろうか。
というのも、長年、野生のカワセミは都会でお目にかかれなかったからである。
理由はその生態にある。川や湖沼に暮らし、生きた魚やエビを獲物とする。川沿いの土手に横穴を掘って産卵し、ヒナを育てる。
ところが、戦後の高度成長期、都会の川の自然は徹底的に破壊された。公害や生活排水で水が汚れ、魚もエビもいなくなった。洪水対策で川の壁面はコンクリートで固められ、土の土手がなくなった。
餌もなければ巣穴を作る場所もない。カワセミは都市から姿を消した。山奥に引っ込み、幻の存在となった─。
そんなカワセミに私が東京都心で出会ったのは、コロナ禍の2021年。近所の小さな川を散歩していたときだ。コンクリート3面張りで誰かが捨てた自転車が半分朽ちて落ちている。およそ清流とはいえない。むしろドブ川である。
だが、そこに青い背中を見つけた。カワセミだ。自宅から徒歩10分。都会のドブ川に、清流の宝石がいたのだ。
