2025年12月14日(日)

令和の京都地図

2025年11月23日

 「神社らしくお清めの雨が降っていますが、今日はみなさん楽しみましょう!」。11月3日、午前11時。主催者の小野寺亮太さん(35)の掛け声と共に、第5回アトツギ縁日が北野天満宮で開催された。(アトツギ縁日誕生の経緯は「<後継者不足に解決策はあるか?>「人類みなアトツギ」が合言葉 京都の老舗後継者たちをつなげるキーパーソン」参照)

雨で始まったアトツギ縁日だったが、終わるころには晴れて2本の大きな虹が掛かっていた(WEDGE)

 当日は参拝者の立ち寄りも見られ、子どもから大人まで多くの人でにぎわい、会場は活気に満ちていた。京都を中心に、大阪や滋賀などからも集まり32社26ブースが出店。大理石などを使った石の神経衰弱等、全て自社にまつわる内容だ。各ブースを回りながら、次世代を担う若手「アトツギ」たちに後継ぎならではの葛藤や挑戦など、思いを聞いた。

現役の京都市役所職員の小野寺さん。実家の滋賀の和食レストランを、自身は継がなかったが、京都にいる多くのアトツギの方にできることはないかと考え、誕生したのがこの取り組みだ

神仏具錺金物:辻和製作所(創業:1962〈昭和37〉年)3代目予定の辻 鷹泰さん(35歳)

 「父からは一度も継いでほしいと言われたことはありませんでしたが、営業の仕事をしながら家業のことは気になっていました。右肩上がりの業界ではありませんが、頑張ってみた方が後悔しないだろうと思い、入社しました。今は錺金物製作の傍ら神楽鈴のドアチャームなどオリジナル商品の製作にも挑戦中。今回初出店で、錺金具技術を使って小判に誕生日などを印字する出し物が、お子さんに好評でうれしいです。加藤健旗店さんが、小判が入るお守り袋を作ってくれました。今後も一緒に仕事ができたらいいなと思っています」

神楽鈴を持つ辻さんは、「優しいアトツギの方が多く終始良い雰囲気だった」と当日を振り返る。出店した小判への印字体験や小判すくいは子どもたちにも大人気だった

旗・幕・暖簾:加藤健旗店(創業:1950〈昭和25〉年)3代目予定の加藤剛史さん(39歳)

 「辻和製作所さんとコラボさせていただきましたが、アトツギ縁日は新たな出会いやヒントをもらえる場所です。今は別の会社で働きながら、将来家業に専念できるよう、準備として幕の造りを応用したエプロンなどを取り扱う自社ブランドを立ち上げました。暖簾や幕の需要は減少していますが、日本の伝統文化は『格好良いもの』です。世界的にも、伝統文化が背景にある商品は魅力にも武器にもなると思います」

自社ブランドのエプロンを着用する加藤さん。「のぼりや旗の需要は減っているが、日本らしいと感じる風景には欠かせない」と話す

京菓子:鶴屋吉信(創業:1803〈享和3〉年)8代目予定の稲田啓太郎さん(34歳)

 「かわいがってもらった祖母(6代目)に恩返しがしたくて家業を継ぐことにしました。京都はブランド力がある一方、長年のつながりや歴史を重んじるため新しい取り組みにハードルを感じやすい土地です。伝統と革新のバランスを若い世代がどう取っていくのかが難しくも面白いところだと思います」

社員の方に囲まれて、看板商品「つばらつばら」のパネルを持つ稲田さん。お菓子がもらえるガラポンは大盛況で、「想像以上にみなさんに楽しんでもらえて良かった」と語る

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