エネルギー・モビリティ分野でも、「発明者」でありながら「主導権を握れない」という構造的劣位が確認される。
日本は、次世代太陽電池の鍵を握るペロブスカイト太陽電池において、2009年に世界で初めてブレークスルーを達成した「発明者」である。しかし、現在、大規模な量産化技術の確立や、国際特許出願のボリュームでは、中国、韓国、欧米勢が先行し、再び「主導権を握れない傍観者」の危機に瀕している。卓越した技術の種を、国際的なエコシステム構築と標準化競争に接続できなければ、それは市場を支配する武器にはなり得ず、単なる「孤立した技術遺産」として終わってしまう。
三つの問題点を
日本はどう突破するか
こうした構造的敗北の背景には、次の三つの深刻な問題点がある。
一つは「資本力とリスク許容度の欠如」である。規模の経済が支配するグローバルなM&A市場において、日本の企業が戦略的買収を主導する規模と、失敗を恐れず破壊的な投資に踏み出すリスク許容度が決定的に不足している。また意思決定の遅さ(稟議に数カ月や年単位を要する企業文化)が、スピード競争の時代に致命的となっている。
二つ目は「金融システムの保全志向」である。成長著しいスタートアップ企業への支援は言うに及ばず、かつての米国のシェール革命を支えたのは、ベンチャー精神と破壊的成長を支えるウォール街金融の実行力であった。一方、日本では、メインバンクを中心とした保全志向の金融システムが、リスクをとるイノベーションへの資金供給を阻害している構造的な違いがある。
そして最後は「エコシステム構築能力の欠如」だ。技術優位を「製品」で完結させようとし、「国際ルールメイキング」「標準化」「マーケット形成」という競争の土俵そのものを自ら設計する能力に乏しい。その結果、電池リサイクル、水素・アンモニアサプライチェーンなどの成長領域でも、全体設計者(オーケストレーター)としての関与ができていない。
筆者は現在シンガポールに駐在している。アジア各国がダイナミックに変化する中で、日本企業の存在感低下に対する危機感から、『Wedge ONLINE』において、「日本不在のアジア最前線─教育と低リテラシーが招く空洞化」を連載中である。詳しくはこちらの記事も参考にしていただきたいが、日本がこの激流の中で生き残るためには、「技術で勝って、戦略でも勝つ」モデルへの緊急かつ根本的な転換が求められる。単なる技術開発にとどまらず、戦略的エコシステム・オーケストレーターへと変身し、国際競争の土俵そのものを自ら設計し直すことが、日本企業にとって、最後の分水嶺となる。
