2024年12月22日(日)

経済の常識 VS 政策の非常識

2022年7月8日

 日本に工場を残すのは難しくなっていると聞く。海外での生産の方が安価だとか、日本は人口減少で将来はない、と日本の経営者自らが言っているようだ。筆者も、米国の経済学者に、「工場での労働はなぜ重要なのか。事故も起きるし、ケガもする。労働組合の仕事だから、雇用の保証や医療保険が付いていることが良いのか」と聞かれたことがある。うまく答えられなかったが、サプライチェーンの維持や安全保障上も製造業は必要だろう。

(thebigland88/gettyimages)

 筆者は、補助金を与えてまで残すべきとは思わない。一方、円安が補助金だという人もいる。しかし、リーマン・ショックの後を考えてみると、世界的に需要が激減したときに、1ドル120円程度だったレートが79円にまでなった。

 これだけ一挙に超円高になれば、日本が製造基盤を失ってしまうのは当然である。日本の実質国内総生産(GDP)は、2000年のITバブル崩壊後、なんとか成長していたが、08年のリーマン・ショックとその後の円高で低成長が続いた。一方、韓国はウォン高にはならなかった。世界需要激減の影響は受けたが、日本のように長期にわたる低成長とはならなかった。

 また、本欄「「円安が日本を貧しくする」は本当なのか?」で書いたように、香港、韓国、シンガポール、台湾は、日本より成長率が高く、為替レートが割安である。

製造業は高い賃金を払える仕事

 いちばん大事なことは、製造業の仕事は依然としてより高い賃金を払える仕事であることである。より高い賃金の仕事であるなら、それだけの理由で残した方が良いのではないか。より高い賃金の仕事を残して、より低い賃金の仕事が減れば、それだけで賃金は平均的には上がっていくはずだからだ。

 ただし、製造業の年収は図1のようになっており、平均よりやや高いだけである。全産業の平均(産業計)が489万円に対して製造業は492万円にすぎない(2021年の10人以上企業、学歴計)。

 これより高い産業は、鉱業採石砂利採取、建設業、電気ガス水道、情報通信、金融保険、不動産賃貸、学術研究専門技術、教育学習支援と、17業種のうち9業種ある。うち、鉱業採石砂利採取、建設業が高いのは屋外での仕事が多いこと、電気ガス水道、情報通信、金融保険は国による規制産業であること、学術研究専門技術、教育学習支援は高学歴者が多いからだろう。


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