親により扶養される子どもがアルバイトをしている場合は、子どもの年収が103万円を超えると、親が「扶養控除」を受けられなくなるため、税負担が増え世帯の手取りが減る可能性がある。なお、子どもが学生である場合は「勤労学生控除」という仕組みがあるため、学生の子の年収が103万円を超えたとしても、130万円になるまでは所得税はかからない。
このように「103万円の壁」が税制上存在するとすれば子どものアルバイトということになる。ただし、「103万円の壁」が引き上げられて学生のアルバイト時間が増えるにしても、学生の本分は学業にあるので、労働時間の増加も限定的になるとも考えられる。
「103万円の壁」の問題点:(1)就労抑制
「103万円の壁」の問題点は、それが心理的な壁であったとしても主婦(夫)のパートに「働き控え」を促していることや、学生のアルバイトでは税制上やはり「働き控え」を促していることにある。
また、最低賃金の引き上げや時給の上昇に伴い、これまでより短い労働時間で「103万円の壁」に到達してしまうため、「103万円の壁」の制約内で供給できる労働時間数が減少しているという事情もある。
実際、10年前の2015年では全国加重平均額で見た最低賃金額は798円、「103万円の壁」の制約内で供給できる労働時間数は1291時間(1か月当たり10時間強)だったものが、24年現在では同じく1055円、976時間(1か月当たり8時間強)と、最賃が32.2%引き上げられた結果、労働時間は24.4%減少することとなった。
このように、少子化、高齢化の進行により人手不足が叫ばれる今、「103万円の壁」が就労抑制を促進するのは企業にとっても日本経済にとっても大きなダメージとなるのは間違いない。
「103万円の壁」の問題点:(2)憲法違反
すでに述べた通り、103万円という金額は、基礎控除48万円と給与所得控除55万円の合計金額である。所得税は、稼いだ収入から基礎控除や給与所得控除など他の控除なども併せて収入から控除した所得にかけられることになっている。
基礎控除とは、日本国憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と、日本国民の生存権を規定しているが、これを税金の観点から翻訳すると、国は最低生活費に課税してはならないとする「最低生計費非課税の原則」を具現化したものである。一方、給与所得者には、自営業主のように収入から実際にかかった経費を差し引く制度が認められていないため、給与収入に応じて「経費分」として一定額を差し引くのが、給与所得控除である。
しかし、最低生活費である「基礎控除」と「給与所得控除」の合計額は1995年以降、物価の変動や最低生活費の変化にかかわらず103万円に据え置かれたままなのだ。