社員を取り戻すために
企業としては、精神科医を嘱託産業医として雇うことが最良だが、すでに、内科医を嘱託産業医として雇用している場合は、二人目を雇うわけにもいかない。
さて、どうするか。一つの解決法は、嘱託産業医とは別に、産業保健に強い精神科医と業務委託契約を結んで、顧問医として助言させる方法がある。
その場合、顧問精神科医は、第一に、診断書と処方歴を専門的見地から検討する。診断書の傷病名、付記事項、処方履歴から、治療の妥当性を評価する。
第二に、労働安全衛生法に基づく情報共有の枠組みを活用し、主治医に対して職務内容や職場状況をフィードバックする。その場合、主治医との交渉窓口は産業医になるので、その産業医に対して、主治医に対する照会事項、会社側の事情の説明、交渉のポイント等についての助言を行う。
第三に、必要に応じて、顧問医の立場から、人事担当者とともに社員本人に対するヒアリングを行う。その際は、社員本人が現在の治療をどう受け止めているか、本人の意思は復職・退職・休職継続のどれなのか、復職意思があるのなら、その場合、どのような希望を持ち、どのような準備を行っているのかを尋ねる。もし、本人が現在の主治医の治療に疑問を持っているなら、適切な医療機関を紹介するなども行う。
そのほかにも、顧問精神科医と協力することで、メンタル系休職に伴う混乱を最小化できる。人事労務部門は企業にとって重要なインフラだが、小さな会社ではそこが弱点となる。
結果として、メンタル系事例が発生すると、労務管理のガバナンスが機能しなくなる。この点については、就業規則を整備して、傷病休暇(社員の権利としての休暇)と傷病休職(会社発令による解雇猶予)との差異を明文化し、その旨を人事担当者の立場から、社内に注意喚起していくなどの方法も考えられる。
メンタル休職は人事管理における最悪の失敗
管見の範囲でも、人事労務の脆弱な会社は、メンタルクリニックからの診断書に翻弄されている。本来、会社が自らの発令によってイニシアティブを採るべき休職・復職を、社員の意のままにさせてしまっている。
休職期間中の社員は、その期間中労務提供はゼロである。給与が支払われている場合、会社はその間の人件費を1円も回収できない。企業にとって、メンタル休職とは人事管理における最悪の失敗であり、深刻な経営リスクであるといえる。
