2025年12月6日(土)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2025年9月8日

「診断書自動販売機」と化したクリニック

 メンタルクリニックの中には、「診断書自動販売機」と化したところがある。患者が「休みたい」と言えば、「要休職」の診断書を書く。「3ヵ月」と言えば「3ヵ月」と書く。3ヵ月後、患者が「戻りたい」と言えば、「復職可能」と書く。言われるがまま、である。

 こういうクリニックは、「自己決定権の尊重」の名のもとに、精神医学的状態に関わらず、希望通りに書く。医師法第19条の「正当な事由がなければ、診断書の交付を拒否してはならない」との文言に従い、「Noと言う正当な事由はない」と称して、二つ返事で言われた通りに書く。

 クリニックの側からすれば、患者は貴重な顧客である。「要休職」診断書を発行することで文書料を得て、その後、休職期間中に定期的に通院させて治療費を得、最後に、「復職可能」診断書を発行することで、再度文書料を得ることができる。その後も通院を続けさせれば、さらに治療費を落としてくれる。

 患者が「休みたい」と言ったときに、即日、「要休職」の診断書を書けば、その後の安定した医療収入につながる。メンタルクリニックの経営は顧客満足度が決定するから、患者を喜ばせなければならない。だからこそ、顧客サービスの中心に、診断書発行を置く。

 「休職 診断書 即日発行」でインターネット検索してみれば、無数のメンタルクリニックがヒットする。どこのメンタルクリニックも、競って診断書を発行している。競争の厳しいメンタルクリニック業界において、「休職 診断書 即日発行」は経営のサステナビリティを支える要素なので、ホームページに「診断書がいかにあなたを守ってくれるか」をうたいあげて、顧客を引き付けようとしている。

企業が抱える困難

 企業が抱える困難は、大きく分けて三つある。

 第一に、診断書の医学的意味がわからない。「3ヵ月の休職が必要」とは、具体的にどのような状態を意味するのか。あるいは、本人の希望通りに機械的に書いているだけなのか。診断名も「適応障害」「うつ状態」「身体表現性障害」「持続性気分障害」などと書いているが、その病名が本人の就業可否にとって何を意味するのか、会社が何をすればいいのか判断のしようがない。

 第二に、治療経過がわからない。休職期間中にどのような治療が行われ、どのような改善や悪化がありえるのか、まったくわからない。今後の通院頻度、治療の概要も分からない。


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