2024年12月7日(土)

プーチンのロシア

2024年8月1日

 「オバマ前米政権より、信頼関係は悪化した」。2017年4月、ロシアのプーチン大統領はトランプ政権下の米国を指して、そう苦々しく言い放った。

 トランプ氏の大統領就任からわずか3カ月。ロシアへの融和姿勢を繰り返し表明し、米国の対露政策の大きな変化を期待させたトランプ氏だったが、その迷走は、プーチン氏を強く落胆させたに違いない。

 17年1月に発足したトランプ政権は、その発足直後から幹部とロシアとの密接な関係が次々と暴露され、「ロシアゲート」とも呼ばれる状況に陥る。さらにトランプ氏は17年4月、ロシアの影響下にあるシリアのアサド政権軍の基地に、突然ミサイル攻撃を強行。冒頭のプーチン氏の発言は、そのようなトランプ氏の行動に対するプーチン氏の評価だった。〝予測不可能〟なトランプ氏は、ロシア側の期待を完全に裏切った。

ロシアのプーチン大統領は米国のトランプ氏の再選を期待しているのか、警戒しているのか( Mikhail Svetlov / gettyimages)

 プーチン氏が今年2月、次期大統領選でロシアにとり望ましいのは「バイデン氏」だと明言し、その理由を「経験豊富で予測可能」としたことは、決して故なきことではない。あらゆる駆け引きを通じて相手国を追い詰め、自国が望む条件を飲ませる。そのような手法で国際社会を翻弄するプーチン氏にとり、予測不能の行動をとる人物は、決して好ましい交渉相手ではない。

 民主党の大統領選候補者としてカマラ・ハリス氏が登場し、プーチン氏はトランプ、ハリスのいずれかと国際舞台で相まみえることになる。ただいずれの候補が勝利しても、事態がロシアにとり一気に好ましい状況になるとは考えにくく、プーチン氏は引き続き、米国で生まれる社会の〝分断〟に期待し、米国を翻弄する手法を続ける可能性が高い。

予想外の攻撃

「トランプ大統領の行動は、まったく予想外だった。当然、実施の数時間前までには(攻撃が行われると)気が付いたが」

「米露の信頼レベルは実務、特に軍では低下した。この分野における信頼は、さらに悪化をしたといえる」

 17年4月12日、プーチン大統領は旧ソ連圏のロシア語話者に向けたテレビ番組「ミール」で、トランプ政権が実施したシリア空爆と、トランプ政権下での米露関係について、こう説明した。司会者の質問に答えるという形をとっているものの、これらの発言はプーチン政権があらかじめ準備したメッセージであることは明白だった。噛んで含めるような発言だが、その内容は、明らかにトランプ政権に対する怒りに満ちていたことは間違いない。

 一体何が起きたのか。放送の約1週間前の4月6日深夜、トランプ政権はシリアのアサド政権が化学兵器を使ったと断じ、化学兵器を保管しているとされるシリア中部の空軍基地を巡航ミサイル「トマホーク」で攻撃したのだ。

 59発ものミサイルが発射され、基地はほぼ完全に破壊されるほどの損害を受けた。ロシアは、「国際法違反だ」と猛反発した。


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