2024年11月22日(金)

プーチンのロシア

2024年8月1日

〝虎の子〟のシリア

 なぜ、ロシアは猛反発したのか。それは、ロシアが後ろ盾であるアサド政権軍がシリア内戦で優位を保ち、かつロシアはシリア問題をてこに欧米をひきつけ、クリミア半島併合以降続くロシアの国際的孤立が一定の解消をみるなど、アサド政権支援がロシアにとり大きな外交・軍事的成果になっていたことが背景にある。

 11年に反政府運動が活発化したシリアでは当初、反政府運動を欧米が、アサド政権をロシアが支持するという構図があった。しかし、シリア国内は次第に内戦状態に陥り、いくつもの過激派組織が台頭し、戦闘は激化の一歩をたどった。このような状況に、欧米は効果的な対抗策が打てず、問題の解決は見えないままだった。

 その間隙を突くように、アサド政権側を支援するという名目でシリア空爆に踏み切ったのがロシアだ。欧米も受け入れられる、「テロ集団を攻撃する」という目的で攻撃を行ったロシアだが、実際には反政府軍を主に攻撃していたと繰り返し報じられた。

 結果としてアサド政権は息を吹き返し、米側もロシアとの一定の協調路線を取らざるを得ない状況になった。ロシアはシリアへの軍事介入をてこに、自国の橋頭保を中東に築き、さらに米欧と対話のチャンネルを確保することに成功した。

 そのような流れは、プーチン政権に融和的とされたトランプ政権の登場で、さらに強固になると思われた。しかしトランプ氏は突如、アサド政権が化学兵器を使ったと断じ、さらに空爆に打って出たのだ。

 ロシア軍兵士が多数展開するとみられるシリアの基地にミサイルを撃ち込むということは、一歩間違えれば、米露の直接的な戦争の引き金にすらなりかねない。まさに〝予測不能〟の行動だった。

ロシアゲートで〝信用〟失墜か

 トランプ政権発足から3カ月もたたないタイミングでのアサド政権への空爆。しかしそれに至るまでにすでに、トランプ政権に対するロシア政府の期待はしぼんでいたに違いない。「ロシアゲート」問題だ。

 ロシアゲートとは、16年の米大統領選挙に、ロシアがサイバー攻撃で干渉したとされる問題だ。選挙直前の10月に民主党の全国委員会のコンピューターに大規模なサイバー攻撃が行われ、米情報機関は捜査の結果、共和党のトランプ陣営を勝利させるために、ロシアが攻撃を行ったと断じた。その後、選挙期間中からトランプ陣営の幹部やトランプ氏の親族らが、ロシア政府関係者と接触していた事実が明らかになり、その後のトランプ政権に打撃を与え続けた。

 トランプ氏に優位になるよう行ったはずの情報提供やサイバー攻撃が、米国内の反露感情をあおる結果になったことは、ロシア側にとり好ましいことでなかったことは間違いない。また、一連の問題でふらつくだけでなく、シリア攻撃にまで手を出すトランプ政権に、ロシア側が早い段階から「信用できない」と判断したことは間違いない。


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