対ウクライナ軍事支援の停止に期待
プーチン氏がトランプ氏に期待をかけているものがあるとするならば、そのひとつは、米国が中心となって行っているウクライナに対する軍事支援の停止だろう。東部戦線で徐々に占領地域を拡大しているロシアだが、それでも戦死者が増え続け、経済制裁が強まり対中国依存が深まる一方の状況は一刻も早く脱したいのが本音だ。
トランプ氏はウクライナ戦争を「1日で終わらせる」と豪語し、バンス副大統領候補も、ウクライナ支援の継続を批判する。このような状況に、ロシアが期待をかけている可能性は決して低くない。ウクライナのクレバ外相が7月下旬、中国の王毅外相との会談で、ロシアとの交渉の可能性に前向きな発言をした直後、ロシアのぺスコフ大統領報道官は「ロシアの立場と一致する」と即座に応じてみせた。
ロシアは、自国にとり優位な形で戦争を終わらせられるあらゆるチャンスを伺っているのが実情で、民主党政権下の巨額のウクライナ支援に対する国民の嫌気を自身の支持につなげようとするトランプ氏の登場は、そのような意味ではロシアにとり優位に働く可能性がある。
プーチン氏に「勝利をあきらめさせる」
ただ、それでもトランプ氏がロシアの期待に沿う方向に米国を導くかは見えてこない。トランプ政権下で国務長官を務めたマイク・ポンぺオ氏らは7月25日、米メディアへの寄稿で、トランプ氏が再選した場合、新政権はウクライナ支援をむしろ強化し、プーチン露大統領に戦争での勝利をあきらめさせるべき――と主張した。
具体的には、ウクライナに対し5000億ドルを貸し付け、その金額で種類の制限なくウクライナが武器を購入できるようにし、ウクライナの経済復興、北大西洋条約機構(NATO)加盟も実現させるべきと主張してみせた。
トランプ氏自身も、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で「私が大統領選挙で勝利すれば、それがロシアを利するなどとする〝フェイクニュース〟を信じてはならない」と、ゼレンスキー氏に伝えた事実が明らかになっている。
トランプ、またカマラ・ハリスのいずれが大統領になったとしても、それが短絡的にロシアを利するような事態は、簡単には想定されない。プーチン氏は引き続き、米国内の一層の分断を狙いつつ、対米関係で少しでも優位に立とうとする戦略を続けざるを得ないと考えられる。