2024年7月16日(火)

プーチンのロシア

2024年7月11日

 ロシアのプーチン政権が、イスラム過激派による大規模テロの脅威を封じ込められない実態が浮き彫りになっている。3月にモスクワ郊外で140人超が死亡したコンサートホール襲撃事件に続き、6月下旬には南部ダゲスタン共和国で、ロシア正教の教会やシナゴーグ(ユダヤ教会堂)が相次ぎ襲撃され、20人以上が死亡する事態に陥った。ほかにもテロの未遂事件は繰り返し発生しているもようで、ウクライナ侵攻が長期化するなか、国内の治安維持が手薄になっている現状が鮮明になっている。

ウクライナ戦争が長引く中、プーチン大統領は国内の治安維持にも頭を悩ませているようだ(代表撮影/ロイター/アフロ)

 ダゲスタンはロシアの最貧地域のひとつで、多くの若者がウクライナ侵攻に駆り出されて死亡している事実でも知られる。テロ事件に関与したのは過激思想に影響された地域のエリート層の若者らで、現状への不満が鬱積している可能性も否定できない。

 モスクワ郊外でのテロ実行犯の出身地である旧ソ連タジキスタンや、ダゲスタン共和国があるカフカス地方はかつて〝ソ連のやわらかい脇腹〟と呼ばれ、旧ソ連時代から、過激思想の浸透が懸念されてきた地域だ。その鳴動が、ロシアを揺さぶりはじめた。

テロ実行犯の実態

 「息子たちとはもう数年間、会話を交わしていなかった」

 6月23日に発生したダゲスタンでの大規模テロ事件で、武装勢力に自身の2人の息子が加わっていたマゴメド・オマロフ氏はそう語ったという。オマロフ氏は、ダゲスタン共和国で地域行政の中心者を務めていたが、事件発生を受け役職を解かれ、拘束された。

 犯人のなかには、プーチン政権の与党を支持する政党「公正ロシア」の関係者も含まれていたとされる。ダゲスタン当局は急遽、共和国内の政治関係者の思想調査を実施する方針を明らかにした。

 オマロフの二人の息子は、イスラム教のワッハーブ派の思想に傾倒していたという。ワッハーブ派は、シャリーア(イスラム法)に基づくイスラム国家実現を理念とし、その過激な活動で知られる。カフカス地方への浸透はソ連時代に始まったとされるが、治安機関や内務省による厳しい監視下に置かれていた。

 しかし、ペレストロイカ以後は国外からの布教者の活動が活発になったことから、サウジアラビアの支援を受け、カフカス地方の各地で基盤を拡大し、親ロシアの現地の行政当局と激しく対立した。


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