開戦から2年以上が経過したウクライナ戦争。この戦争の趨勢を見極めるには、ロシア・ウクライナ双方の国民の「意思」を、注意深く見定める必要があります。
開戦当初から西側諸国の厳しい制裁を受けることとなったロシア。その中で、ロシア国民は何を思うのか? 2022年モスクワの様相をお伝えします。
「多くのヨーロッパ企業はロシア市場から撤退すると表明している。しかし、これは良いことかもしれない」
プーチン大統領は2022年5月下旬、こう発言して世界の耳目を集めた。相次ぐ外資の撤退が、自国産業を強める契機になるとの趣旨の発言だった。〝外資系企業がロシアに参入して市場を開拓してくれた。そしてその市場を今、ロシア企業が獲得できる〟──。プーチン大統領の言葉には、そのような意図が込められていた。
多くの人々が驚いたプーチン大統領の発言だったが、ロシアは実際には2022年のずっと以前から、このようなプーチン大統領の考え方に沿った政策を進めていた。2014年のウクライナ南部クリミア半島の併合以降、国際社会からの経済制裁に対抗するために進めてきた「輸入代替」政策がそれだ。
ロシアは制裁により、欧米などから一部の先端技術の提供を受けられなくなったほか、一部の製品を輸入できなくなったが、プーチン大統領はそれを機に輸入に依存せず、自国産品で産業を回せる態勢を整えようとした。
今回の全面侵攻により、制裁は一気に強化され、外資系企業の撤退が加速した。だからこそ、国内企業が生産を増大すれば、外資に奪われていた国内でのシェアを奪還できるとプーチン大統領は主張したのだ。
実態はどうなのか。確かに、欧米や日本の企業が撤退したことは、ロシア企業にチャンスを生んだ。ただ、長い目で見れば、輸入代替政策はロシアの産業にとり、むしろ逆効果になる可能性が高いと私はみている。それには、ロシア特有の理由がある。
ロシアは旧ソ連時代から、宇宙開発や軍需産業など、特定の分野を除けば多くの産業で西側の国々から立ち遅れていた。共産主義体制下の産業は、資本主義体制下のような民間企業間の自由な競争が起きず、西側との差が開いていったためだ。そして、ソ連崩壊後の経済混乱で国内企業は一気に経営状態が悪化し、その遅れはさらに決定的になった。
1990年代は混乱が続いたが、ロシアはその後、2000年以降の国際的な資源価格の上昇で経済を立て直し、その輸出収入で海外の製品・サービスを輸入することで、人々の生活水準を向上させてきた。
しかし、今回のウクライナへの全面侵攻を受け、ロシア事業の停止・縮小などを決めた多国籍企業は1000社を超え、同時に多くの輸入品が消えた。
プーチン大統領が主張する輸入代替政策は、原材料が潤沢に国内に存在していたり、生産コストを度外視したりすれば、一定程度は成功し得る。しかし、技術やノウハウの積み重ねがない状態で、輸入品と同レベルの製品を作ることはできない。企業間の競争が働かない環境で生産された商品・サービスを押し付けられる国民は、たまったものではないのが実態だ。