2024年10月6日(日)

プーチンのロシア

2024年7月8日

こぞって「中国詣で」に赴くロシアの経営者

 また、外資が撤退し、ロシア企業が「輸入代替政策」のもとで生産を増大させても、ロシアの国民のニーズを十分にカバーすることが困難なのは明白だ。その市場の空白を埋め合わせているのが中国製品だ。ロシアを自陣営に取り込み、エネルギー資源も廉価に買い叩く。さらに、市場まで解放させているのだから、中国の狡猾さは並大抵ではない。

 「ロシア企業経営者の中国詣でが止まらない。皆、中国に出張している」

 モスクワ滞在中、ある日本企業関係者は、ロシアが中国への依存度を高めている状況をそう語ってくれた。欧米の経済制裁を受けるなか、ロシア企業に門戸を開けてくれて、世界第2位の経済規模を持つ中国に、ロシア人経営者らが大挙して訪れているというのだ。

 欧米や日本企業が撤退するなか、中国がロシア市場を奪った典型が、乗用車分野だろう。ロシアや旧ソ連の経済情勢を調査する「ロシアNIS貿易会」(東京)の調査によれば、2023年上半期において、ロシアの乗用車市場におけるメーカー別の販売台数トップ10ランキングで、実に6社が中国メーカーだった。

 さらに、ほかの海外企業が撤退したあとの工場も、中国企業が利用し始めている。ロシアNIS貿易会によれば、日産が保有していたサンクトペテルブルクの工場を引き継いだアフトバスは、中国メーカー「第一汽車」の乗用車のモデルを使い、アフトバスの「ラーダ」ブランドの乗用車生産を始めたと伝えられている。ロシア極東ウラジオストクにあったマツダの工場では、ロシア企業が2023年9月に乗用車生産を再開した。中国の自動車メーカーの協力を受けているとみられている。

 ロシア極東でのマツダの活動は、私も強く記憶しているところだ。2015~17年に、私はウラジオストクで開催された、プーチン大統領や安倍晋三首相らが出席した「東方経済フォーラム」を取材したが、その会場の公的な車両として利用されていたのがマツダの乗用車だった。

 赤い、力強いフォルムの車体は多くの来場者に強い印象を残していた。マツダの車が公用車として利用された背景には、日露間の経済協力の象徴として、マツダの極東への工場進出をアピールしたい日本政府の意図があったことは想像に難くなかった。私もその車体を見て、日本人として誇らしい気持ちになったのが素直な思いだった。

 その工場において、中国とロシアのメーカーが、共同で自動車を生産することになるという。ただ、言葉にならない思いだ。極東ビジネスに携わってきた、多くの日本の企業関係者も、同じ気持ちだろう。

 中国はさらに、対露輸出が止まったはずの海外メーカー製の乗用車を、ロシア市場に送り込む拠点としても利用されている。ロシアはこれまで禁じていた、「並行輸入」と呼ばれる貿易手法を、ウクライナ侵攻後に受けた経済制裁に対抗するために解禁した。

 並行輸入とは、海外の正規品を、第三国経由で輸入する行為だ。かつてロシア政府は、価格のつり上げなど不正の温床になるとして禁止していた。しかし、中国で乗用車を生産する海外メーカーが多いことに目を付け、中国経由で日米欧の乗用車が輸入されているという。

 2023年6月には、並行輸入の手法でホンダの乗用車を販売する〝正規〟のロシアのディーラーまで現れたとの情報がある。中国を足掛かりに、制裁が骨抜きになっている実態が浮かび上がる。

連載第4回「【戦時下で開業したモスクワの「コスプレ喫茶」】日露関係の行方は? プーチンのパフォーマンスに翻弄され続けた日本外交」(7月10日公開)に続く

 

 

 

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