5期目に入ったロシアのプーチン政権が、ウクライナ侵攻のさらなる長期化に備えて戦時経済体制を強化している。プーチン氏は5月14日、元経済閣僚で、軍や治安機関との関係が希薄とされるアンドレイ・ベレウソフ氏を国防相に任命。再任以降で初となった外遊先には中国を選び、米国が強める経済制裁への対応を協議したもようだ。
ロシアの国防関連予算は予算全体の3分の1に達し、ソ連時代末期に匹敵する。当初は数日で終えるはずだったウクライナ侵攻が3年目に突入し、その先行きがまったく見えない中、限られた予算をいかに〝活用〟するかに、政権が苦慮している実態が浮かび上がる。
異例の元経済閣僚を抜擢
「今日の戦争の勝者は〝革新〟を受け入れられる必要がある。だからプーチン大統領は、文民に国防省を率いらせる決定をしたのだ」
ロシアのペスコフ大統領報道官は、ベロウソフ氏の国防相任命の理由をメディアにこう説明してみせた。
「革新」と言えば響きがいいが、それは前任のショイグ氏のやり方では、戦争に勝てないと判断したことを意味する。22年2月のウクライナ侵攻開始当初、ロシアは数日間の電撃戦で戦争を終わらせる考えでいた。しかしその目論見が崩れ、戦争が長期化して3年を過ぎる中、これまでと同じやり方ではウクライナに対して勝利はできないと判断した事実が浮かび上がる。
ベロウソフ氏とは何者なのか。同氏はモスクワ大学を卒業し、経済学で博士号も取得した人物だ。12~13年に、経済発展相を務めた経験があるが、それ以降は第一副首相などを務め、ロシア国内のメディアでも比較的目立たない人物だった。
ただ、19年に一時期、メディアに広く取り上げられる機会があった。それは同氏が、鉄鋼、化学、石油化学業界に対し、巨額の追加課税をすべきだとプーチン大統領に進言したときのことだ。ビジネス関係者がその事実をマスコミにリークし、ベロウソフ氏は激怒したという。経済専門家として、政権に忠実な姿勢がうかがえる。