2024年7月16日(火)

プーチンのロシア

2024年5月29日

 ロシアの独立系メディアによれば、ベロウソフ氏はコンサルティング会社も率いていたという。同社が政府との契約で、不透明な巨額の利益を得ていたとも報じられている。ただ一方で、軍や治安機関との目立った関係は確認されていない。

 結局ロシア軍は、最高司令官としてのプーチン氏と、ゲラシモフ参謀総長がその戦略を遂行している。ベロウソフ氏に、軍事的な知識は不要で、国防費の執行の管理がその任務のほぼすべてと言って過言ではない。

停戦条件でハードル吊り上げ

 プーチン政権がベロウソフ氏を国防相に任命した背景をめぐっては、ロシア国内外の多くの専門家らは、政権がウクライナ侵攻のさらなる長期化に備えているとの見方で一致している。逆に言えば、効率的な国防費の執行がなければ、この戦争に勝てないとの政権の危機感がうかがえる。

 プーチン大統領は5月24日にベラルーシの首都ミンスクで行った記者会見で、ウクライナ侵攻をめぐる停戦条件として、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟の否定や、現在ロシアに占領されている領土の放棄などを挙げた。当然、ウクライナ側が現時点でこのような条件をのむ可能性は極めて低く、そのような見通しをロシア側も理解していると思われる。あえて高いハードルの条件を設定して、少しでもその条件に近づけさせようとするロシア外交の常套手段だといえる。

 米国では4月、難航した対ウクライナ支援の予算が成立し、今後順次、ウクライナ側の国防力が強化される見通しだ。ロシア側は、米側の支援が届かない前にウクライナ東部で攻勢をかけているが、米側の支援がいずれ届けば、再び戦況は変わる。

 米共和党のトランプ前大統領も、否定的だったウクライナ支援に一定程度理解を示しつつあるとの見方もあり、ロシアは現時点で、戦費支出を効率化するという〝ギア〟を上げざるを得ない実態がある。

深まる戦時経済体制

 戦時下にあるロシア経済はまだら模様だ。日本を含む欧米諸国の度重なる経済制裁にもかかわらず、国内総生産(GDP)成長率は24年1~3月期に前年同期比で5.4%となった。制裁による前年の落ち込みの反動という部分もあるが、国防支出の大幅な増大が、経済成長を後押ししているとみられている。

 皮肉なことに、ロシア軍では地方の低所得者が徴兵される傾向が強い一方で、彼らが従軍により一定の収入を得るようになったために、ロシアの貧困層が大幅に削減されているという事象も起きているとも報道されている。

 ただ、そのような状況は当然、いつまでも継続できるものではない。ロシア軍兵士の死傷者数は30万人を超え、英BBCの報道によれば死者数も5万人に達したとみられている。


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