2024年12月10日(火)

プーチンのロシア

2024年4月23日

 モスクワ郊外で起きた大規模テロ事件を契機に高まった中央アジア移民排斥の風潮に、ロシアのプーチン政権が苦慮している。ウクライナ侵攻を受けた徴兵増や、若年層の国外脱出で国内の労働者不足が深刻化するなか、移民労働者の減少はロシア経済の回復に打撃となるためだ。

プーチン政権はテロ事件により、経済的にも厳しい選択に迫られている(代表撮影/AP/アフロ)

 移民規制はテロ実行犯の出身国であるタジキスタンの政治・経済に打撃を与え、親ロシアのラフモン政権を揺るがしかねない。〝ロシアの柔らかい脇腹〟とも称される中央アジアの不安定化は、過激主義に傾倒する若者をさらに増大させ、ロシアを一層のテロの脅威にさらす危険性もある。

殺害予告

 「一体、どうしていいのか分からない。私は妊娠をしているのに、怖くて外に出ることもできない」 

 ロシア西部の都市イワノボで、理髪店を営む女性は現地メディアの取材にそう打ち明けたという。彼女の店では、テロ事件の実行犯とされるタジキスタン出身の容疑者が働いていた。男を雇っていた事実を恨まれ、女性の家には彼女の殺害を予告する脅迫電話が鳴り続けた。

 テロ実行犯として拘束された4人の男は皆、旧ソ連・タジキスタン出身者だった。当局により拘束された男はいずれも、顔が腫れ上がるなど拷問によるものと思われる跡があった。右側の耳に、大きな包帯を当てていた容疑者の一人は、当局による尋問のさなかに、片耳を切り落とされていたとの報道もある。

 そのような姿をあえてさらしたのは、当局が強硬な姿勢で取り締まりを行うことをアピールする狙いもあったもようだ。モスクワ市民が広く知る人気のコンサートホールで銃を乱射し、140人以上が犠牲になった今回のテロ事件。そのような蛮行の発生を食い止められなかった当局が、少しでも国民の支持を回復するには、犯人らへの苛烈な取り締まりをあからさまにさらすほかはなかった。

 怒りは当然、一般市民にも広がった。タジク人が運転するタクシーが乗車拒否されたり、暴行される事態も発生したほか、タジク人が経営する店舗が放火されるなどのケースも報じられている。

 労働移民に対する警察の尋問が強化されただけでなく、警官が労働者から、金品を巻き上げるケースもあったという。ネット上では、有力ブロガーらが労働移民の徹底排除を要求する主張を繰り広げ、「殺害しても構わない」などの過激主張も行われた。政界でも移民規制強化を求める声が上がった。


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