2024年7月16日(火)

プーチンのロシア

2024年7月11日

 ワッハーブ派の活動は、近年は下火になっていたと指摘されるが、実際にはオマロフの発言からは、地域のエリート層に過激なイスラム思想が深く浸透している可能性が極めて高い実態が浮かび上がる。

 さらに、テロ事件の襲撃の手法は凄惨なものだった。事件はダゲスタンの首都マハチカラと、多くのユダヤ人が居住することで知られる古都デルベントで発生した。

 武装集団は、デルベントではロシア正教会とシナゴーグの双方を攻撃。正教会の司祭がのどをかき切られて殺された後に、教会に火が放たれた。シナゴーグも同様に襲撃され、火災が発生した。

 事件が起きた6月23日は、ロシア正教の祭日だったといい、犯人らはこの日をあえて選んだ可能性が高い。マハチカラでは警察の拠点が襲撃され、一連の襲撃で十数人の警察官が死亡したという。

プーチン政権に衝撃必至

 イスラム教徒が多数派を占めるダゲスタンではまた、昨年10月にマハチカラの空港で、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザに対する攻撃に反対する数千人のデモが発生し、暴徒化したデモ隊が滑走路に侵入する事態が発生していた。同事件と、今回のテロ事件は、現地の反ユダヤ主義の高まりを如実に示している。

 昨年10月の滑走路侵入事件当時、ロシア政府は「犯罪的なウクライナ政府が直接的な役割を担った」(ロシア外務省のザハロワ報道官)などとにわかに考え難い批判を行ったが、このような問題の発生は、国内における宗教や民族間の対立が起こりえないとの立場をとるロシア政府にとり、極めて都合が悪いからにほかならない。

 さらに今回のテロ事件では、プーチン政権のウクライナ侵攻を支持し、政権を支えるロシア正教会の教会に攻撃を仕掛けた点でも、政権に与えた衝撃は甚大なものであったことは間違いない。これは、事件が現在のロシアの統治手法そのものへの激しい怒りを背景にしている可能性があるからだ。

 ダゲスタンはロシア国内で、最も貧しい地域のひとつとして知られ、2021年の一人当たりの域内総生産(GRP)は、ロシア平均の約4分の1程度にとどまっていたとされる。さらに、22年のウクライナ侵攻開始直後に行われた調査では、死亡が確認されたロシア軍兵士の間で、ダゲスタン出身者の割合は最も多かった事実も判明している。

 ウクライナ侵攻では、貧しい地方出身者がより多く徴兵される一方、モスクワやサンクトペテルブルクなどの大都市からの徴兵はわずかで、地域間で大きな格差がある事実が判明している。このような地域間での著しい格差が、ダゲスタンのエリートらの間で、中央政府に対する激しい憎悪をかきたてたとしても不思議ではない。


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