ロシアはシリア新政権との関係強化に躍起になっている。シリアにはロシアの対中東、対地中海戦略上、死活的に重要な2つの軍事基地があり、これを失うことの損失を十分認識しているからだ。だが、ロシア軍の爆撃で市民や戦闘員多数を殺害された新政権側はロシアに亡命したアサド前大統領の引き渡しを要求、プーチン政権が対応に苦慮している。

シリアの利権確保へ、プーチン大統領自らが交渉役を担おうとしている(代表撮影/AP/アフロ)
2つの軍事基地はなぜ重要なのか
1月末、ボグダノフ外務次官やラフレンティエフ・シリア担当大統領特使らロシア代表団がダマスカスを訪問、アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領ら新政権の指導者らと会談した。昨年12月のアサド政権崩壊以来、ロシア高官がシリア入りするのは初めてのことだ。
ロシアは2015年、アサド前政権がシャラア暫定大統領らの反政府勢力に追い詰められて敗色が濃厚になった際、アサド氏支援で軍事介入。反政府勢力を猛爆撃で押し返した。ロシア軍の空爆でこれまでに反政府勢力側の戦闘員と住民約2万4000人が犠牲になった。ロシアは新政権の憎き敵国だったのだ。
しかし、ウクライナ戦争の対応を強いられたロシアは旧政権をあっさり見限り、アサド氏をロシア軍機で連れ去るようにモスクワに亡命させた。ロシアはアサド政権崩壊で、2つの軍事基地の守備隊を除き、シリア駐留軍の大部分を本国に撤収させた。
軍事基地の1つはソ連時代から保有する西部の地中海沿岸タルトスの海軍基地。もう1つは軍事介入後に新設した北西部フメイミムの空軍基地だ。両基地とも2066年まで駐留できる合意となっているが、新政権の間でこの合意の有効性は不透明になった。両基地はシリアだけではなく、中東や地中海沿岸の欧州諸国、アフリカをも視野にいれたロシアの橋頭保だ。