なぜ、プーチンはトランプに期待するのか
むしろ、目下のところ、トランプ氏に最も期待しているのは、プーチン大統領本人だろう。「(トランプ氏側から)対話再開を希望する、第3次世界大戦を阻止すべきだと聞いており、こうした姿勢は歓迎だ」。プーチン氏はわざわざ、トランプ大統領就任式に先立ち、1月20日の安全保障会議でそう発言した。
「2020年に勝利を盗まれずに大統領になっていれば、ウクライナ危機は起きなかったかもしれない」、「ウクライナ問題に関する交渉の用意はある」とも発言しており、ウクライナ側が交渉を望む場合、ロシアとして交渉の担当者を用意することを明らかにしている。このようにプーチン大統領が、トランプ氏に秋波を送るのはなぜか。
その主な理由は、2年連続で成長したプーチン主導の「ロシア戦時経済」に陰りが見えてきたことにある。
ウクライナ侵攻に伴い、欧米諸国はロシアに史上類例をみない規模の制裁を科したが、ロシア経済が予想をはるかに上回る耐性をみせてきたことは周知の事実だ。ロシアのGDPは23年に3.6%拡大し、24年は約4.0%の成長が見込まれており、この経済成長の牽引役は軍需と国内消費が担ってきた。
ロシア連邦国家統計局データによれば、24年1~10月、コンピュータ・ 電子・ 光学機器は、前年同期比34.8%、金属製品は同29.8%、輸送機器は同29.7%と特に製造業が伸長しており、この軍需で潤った国民の実質所得は、旺盛な国内消費や民間投資として循環している。
ただし、3年におよぶ過大な軍事支出はさすがに財政を圧迫し無理を強いている。25年予算において、国防費の割合は約33%、対GDP比6%を超えており、他部門の支出を犠牲にしながら、3年連続で連邦予算の大半を占める。
この大規模に投ぜられた財政資金は、装甲車、弾薬、軍用ドローン等の武器生産にまわるとともに、実は、契約兵士の給与にかなりの額が充てられている。ロシア軍は現在でも毎月2万~3万人の新兵を必要としているが、これらは全て契約兵士で補充されている。
もっとも、戦線に地方の若者を引っ張り出すには、多額の経済的インセンティブが必要だ。現在、入隊時に契約兵士に支払いされる一時金は平均で110万ルーブル(1万1000ドル)、年収にすると350万~550万ルーブル(3万4000~5万3000ドル)。ウクライナが越境攻撃しているロシア西部クルスク州に隣接するベルゴロド州では、一時金が従来の3倍超となる300万ルーブル(2万9000ドル)に引き上げられた。これは23年のロシアにおける平均月給の約35倍に相当する。
こうした巨額の軍需財政出動は、不自然なカンフル剤を投与し続ける格好となり、労働力不足と国民所得の増加により供給サイドの不足を招いている。そして、民間需給の逼迫がインフレ高進につながっているのだ。