車の安全性が向上しても車検制度は変わらない日本
まず、技術向上による故障の激減ということだが、1990年代以降の自動車製造は年々その製造技術が向上することによって、精度を向上させてきた。トヨタ生産方式や、ホンダが自慢していた製造機器の開発と改善は、いつの間にか世界の大手メーカーでは当たり前となった。そんな中で、多くの部品の標準化が進み、また生産管理や品質管理に先端技術が導入されることで、自動車という機械の信頼性は向上していった。
こうした変化を受けて、例えば米国の多くの州では車検(インスペクション)を新車の場合は最初の5年間から7年間は免除としたり、その後も排ガス検査は行っても、その他の安全面の機能検査は簡素化するようになっている。これによって、事故が増えたという報告はない。そんな中で、今でも品質や信頼度は世界一と思われる日本の本国では、依然として新車の場合も3年経つと車検が必要である。
つまり、技術革新による品質向上の結果を、日本の監督官庁は評価しておらず、その結果として消費者は過大な負担を強いられているとも言える。一部の高級車ディーラーで、車検の「手抜き」事件が暴露され社会的非難を浴びたことがある。米国の同じブランドのファンからすれば、初期性能に対して究極の信頼がある同一モデルが、日本では丸3年の時点で千ドル以上のコストのかかる検査を要求されると知ったら唖然とするであろう。
EV化で減っていく検査と整備
これとは別に、2010年前後以降、世界の自動車メーカーはハイテクを利用した「安全装備」を全ての車種に実装するようになった。車線逸脱防止、渋滞時の自動追尾なども便利だが、何といっても衝突回避システムに関しては、日進月歩と言える。最新のモデルでは可視光線センサー(カメラ)に加えて、各種のセンサーなどを使用して、とにかく「衝突を回避する」ように設計されている。
こうした「安全装備」の進歩は、そもそも自動車の「衝突」の可能性を大きく改善することとなった。例えば昔なら初心者のドライバーが「消火栓」や「電柱」にクルマをぶつけるなどという事故はよくあったが、最新の自動車の場合はこうした事故はほとんど回避される。その結果として、「板金塗装」という工程へのニーズは激減しているはずだ。今回のビッグモーターの事件でも、こうした事情が問題の背景にあると考えられる。
最大の問題は、EV化である。従来のガソリンエンジン車は、燃料を噴射してこれに点火、爆発させてその圧力で発生するシリンダーの上下運動エネルギーを回転運動に変換してシャフトを動かすとか、トルクの有利な回転数を使うために、複雑な変速装置が必要であるなど、とにかく機構は複雑である。トヨタが得意としているハイブリッドの場合は、そのようなガソリンエンジンと、モーター兼発電機を搭載することで、機械としてはより複雑化されている。
けれどもEVになると話は違ってくる。EVにはエンジンオイルがなく、変速機がなく、給排気口がなく、冷却装置もいらない。