2024年7月16日(火)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2023年9月21日

 だが、仮にジャニーズ事務所並みの大手芸能事務所が女性タレントを専門にマネジメントしていて、それこそ地上波の多くの局でドラマの主役を送り込んだり、冠番組を作らせていたとしよう。その上で、今回の喜多川氏の事件と同じような膨大な性暴力加害が明るみに出たらどうであろうか。ファンがまた違った思いや行動を起こしていたかもしれない。 

 こうしたストーリーと比較すると、ジャニーズタレントのファンは、極めて健全であり、良識に満ちている。これは、欲望の本質にジェンダーの非対称性があるという問題を超えている。

 現在は、ジャニーズタレントの活動全体が批判の対象となる中で、ファンも共犯だとか、悪者の応援団のように批判する動きもあるが、これは筋違いというものだ。ただ、このファンのマジメで純粋な応援の心理というものが、事件の発覚を遅らせ、そこに喜多川氏が付け込むスキを与えたのもまた事実である。

 いずれにしても、この真剣な無数のファンに対しても、誰かが真摯な謝罪を行いつつ、今後の対策への理解を求める必要があるだろう。仮に現役タレントの中で、深刻な隠蔽、幇助に関わっていた者がいた場合は、その責任からは逃れられないことを、ファンに対しても説明することが必要だ。反対に、ファンが支持しているから、タレントの加害追及を緩めるということはあってはならない。

このままでは何の解決にもならない

 整理すると、現在の流れは本質的な解決には程遠い。被害と加害を切り分けた救済と責任追及というメリハリが効いていない一方で、広告主企業は横並びでジャニーズ忌避を始めた。恐らくその結果として、事務所の移籍が雪崩のように発生して問題はウヤムヤになるであろう。

 その一方で、現状維持を求める勢力はファン心理を口実にし、これに反対する勢力は熱心なファンを批判するということも続く可能性がある。また外圧あっての改革という国恥状態への反省もされないであろう。そうではなく、原則論からしっかり整理をして問題を解決してゆく姿勢が、今こそ問われている。

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