2024年12月22日(日)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2023年8月29日

 会社法が2021年に再編成されたことにより、日本の上場企業における、社外取締役の設置要件が厳格化された。だが、商法改正で運用が始まって30年以上が経過する中で、その主旨が理解されているかというと、今でも極めて残念な状況がある。

( hxdbzxy /gettyimages)

 この30年間、多くの企業では社外取締役は名誉職だと考えられてきたし、これに加えて女性アナウンサーや女性の芸能人を社外取締役として迎えるという風潮も出てきた。つまり女性役員を社内から抜擢するのは難しいので、社外取締役に女性を迎えて取締役における女性比率を上げようというのである。

 また、女性に限らずタレント的な知名度のある文化人を社外取締役に迎えることもあるし、中には芸能事務所が社外取締役を送り込んだり、人材派遣のエージェンシーが登録していた候補者を送り込むということもあるようだ。背景には、著名人を社外取締役に迎えて「広告塔」にしようという思惑も透けて見える。

 これでは、全くコンプライアンスの改善にはならない。改善にならないというよりも、西側の自由経済圏におけるコーポレート・ガバナンスの哲学がまるで理解されていないということになる。

社外取締役が持つべき3つの責任

 まず、社外取締役には、現行の経営陣が暴走して株主の利益を損ねたり、違法行為を行ったりしていないかを、株主の利害という立場から厳しく監視するという責任がある。

 また、役員や取締役の人事や給与など「彼ら自身が決めると利害相反になる」問題については、取締役会を代表して判断し決定する責任を負う場合もある。

 さらに緊急の場合、仮に取締役会が背任などの問題を起こして機能不全に陥った際には、社内取締役の権限を停止して、社外取締役が非常時の経営執行責任を負うことがある。

 この3つの責任は非常に重いだけでなく、その責任を果たせない場合は株主から訴訟されるという民事上の責任を負う。それだけでなく、民法および会社法に基づく取締役の善管注意義務に違反することとなれば、刑事上の責任を問われる可能性もある。


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