2024年11月22日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2023年8月29日

 そう考えると、まず企業がそのブランド戦略を高めるために、著名人の社外取締役を「広告塔」として使うというのは全くもって不適切だ。広告や広報の活動は、日々の経営の執行の範囲である。つまり社長以下の執行体制を監督する立場である社外取締役が、その執行体制の監視者・批判者であることを忘れて、宣伝活動に利用されるというのは指揮命令系統の重大な違反と思われても仕方がない。

 また、社外取締役に女性を採用することで、女性役員にカウントするというのも間違っている。女性役員を増やすのは、社内の日々の業務において、女性が活躍できる風通しの良い組織にするためであり、また社会の半数を占める女性の意見を経営に反映することで適正な社会貢献を目指すためだ。であるならば、日々の経営に関与する執行役員における女性比率を高めるのが先決であろう。

 年功序列人事を止められないなどの事情から、執行役員人事は依然として男性中心である中で、社外役員に女性を招聘して「数合わせ」を行うのであれば、そのような姑息な企業姿勢はかえって社会から不信を買うであろう。

財務諸表の知識は必須

 社外取締役に求められる資質として見逃されがちなのが、財務会計の視点だ。経営陣を監視するという責任の中で、最も重要なのがこの分野である。法務や労務の分野は、まだ社会常識があれば乗り切れるし、弁護士、社労士や監督官庁などに丁寧に教えを請うことも可能であろう。

 だが、財務会計に関しては、少なくとも複式簿記の知識と、財務諸表に精通していなければ、とても経営の監視はできない。その意味で、著名人やタレントを社外取締役にするというのは、あまりに安易であると思う。

 執行役員を兼務する取締役であれば、営業なり技術など専門分野のプロということでも許される場合がある。だが、社外取締役というのは、外部の第三者の目で経営を監視することが主要な任務であるから、財務諸表の読めない人間に善管注意義務が果たせるとは到底思えない。

 また、一部の芸能事務所やエージェントが「社外取締役の利権」を紹介、斡旋しているとして、そうした第三者が「報酬の中抜き」をしていたら、これも大問題である。「社内の経営陣に頼まれて」「自分達の有利になりそうな人物を斡旋してもらい」「そのエージェントに金を払い」「その分、社外取締役本人の報酬が減額される」という構造があるのであれば、そこには、企業ガバナンスの腐敗を招く明らかなリスクがあるからだ。


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