電気自動車メーカー・テスラの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏は、なにかと話題になることが多かった。ロサンゼルス市内にトンネルを掘るプロジェクトをぶち上げたり、火炎放射器のおもちゃを売り出したりして世間の耳目を集めていた。
昨年のツイッターの買収以降は、メディアへの登場回数はさらに増しているが、今年6月には「ESG評価は悪魔」とつぶやき話題になった。
ESGは、環境問題への企業の取組姿勢(E)、社会的な課題への取組(S)、企業統治(G)を評価する指標だ。多くの機関投資家、金融機関は、ESGに熱心な企業に投資を行うESG投資も行っている。
マスクは米国の大手格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ・グローバル(S&P)によるESG評価への不満を表明した。テスラの評価は、100点満点中37点。米日独の自動車メーカーの大半よりも低く、84点と伝えられるタバコを販売しているフィリップ・モリスよりも低かった。
ESGの視点でテスラがタバコの会社より劣ると聞けば、マスクでなくても驚く。ESG評価が低いからといってテスラの株価は影響を受けなかったが、今後、資金調達面では影響がでるかもしれない。
だからといってESG評価を上げようと活動するのもリスクだ。ESGの評価を上げようと取り組んだ結果、消費者のボイコットにあい、株価が大きく下落している企業が米国では続々でてきている。
反ESG運動を主導する人たちがボイコットに火をつけた結果、ディズニーから売れ行き一番のビール、バドライトまで影響を受けている。7月4日の米独立記念日のフロリダ・ディズニーワールドはこの10年でもっとも閑散としていたと報じられた。
企業がESGをマーケティングに利用した結果反発を呼び、逆効果になる例だ。米国の消費活動にはESGは大きな影響を与えているが、そもそもESG評価は信頼できるのだろうか。
ESGと距離を置き始めた資産運用会社
ESG評価の目的は、企業、事業のリスクが将来の経営に与える影響の分析にある。例えば、多くのESG評価では、燃料用石炭を生産している企業の格付けは低くなる。これから温暖化問題への取り組みが強化されれば、二酸化炭素排出量が多い石炭の需要が減り、石炭生産企業の経営は苦しくなると予想されるからだ。
株式に投資する個人、機関投資家と金融機関は、ESGの観点からも投資、融資先を選別している。リスクの高い企業への投融資では、利益が得られない、あるいは資金が回収できなくなる。
世界最大手で8兆ドル(約1150兆円)の資産運用会社の米ブラックロックもESGの視点からも投資先を選定していたが、その方針は揺らいでいる。
ブラックロックは、20年からESGを投資判断の基準として利用し、すべての産業と企業はネットゼロ(温室効果ガスの排出ゼロ)を目指すべきとしていた。ESG推進の立場の一部株主からは見せかけの環境への取組、グリーンウォッシュと批判され、反ESGの立場の共和党知事などからは、ESGに取り組んでいるので資産運用対象から外すと通告されていた。