2023年2月5日(日)

MANGAの道は世界に通ず

2023年1月14日

»著者プロフィール
閉じる

保手濱彰人 (ほてはま・あきひと)

キャラアート代表取締役会長。1984年生まれ。東京大学工学部中退。在学中に起業するなどして2014年に株式会社ダブルエル(現・キャラアート)を創業。現在は日本のポップカルチャー・コンテンツの国際展開を図ることに注力している。

 価値観は、時代に合わせて変遷する。マンガからは、こうしたことを読み取ることも可能なのだ。この半世紀での例を見よう。

 『あしたのジョー』(高森朝雄、ちばてつや、講談社)や『北斗の拳』(武論尊、原哲夫、集英社)が描く、暴力・支配や勝利の時代。

 『セーラームーン』(武内直子、講談社)が描く、世の中の秩序を維持する時代。

 『ONE PIECE』(尾田栄一郎、集英社)や『NARUTO』(岸本斉史、集英社)が典型的な、自由を謳歌し夢に向かって走る時代。

 本連載でも扱った、『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴、集英社)や『呪術廻戦』(芥見下々、集英社)が描く、相互理解や融和の時代。

 時代と共に、ヒットした作品はこのような変遷を辿っているのだ。そして、これらを完璧に近い形で説明しきった理論がある。

 当連載では「成人発達理論」を何度も扱ってきているが、これに並び、筆者が人生で一番の感銘を受け、バイブルとしている書籍・理論が「インテグラル理論」なるものだ。この理論上では、体系的なフレームワークとして、「人々や集団の意識というのは、時代の変遷とともにスパイラル(螺旋)のように成熟していく」というものがある。

 具体的には、以下のように「色」を活用して、発達の各段階が表現されている。

 意識が発達しておらず、動物的な生存本能によって行動する【ベージュ】の段階。「赤ちゃん」をイメージすれば分かりやすいだろう。

 見えないものを信仰し、儀式や祈りに頼って部族を守る【パープル】の段階。呪術的であり、まだ未開の地の原住民、などを想像してほしい。

 弱肉強食で、個々の強さが絶対的な指標となる【レッド】の段階。古代の英雄やギャングに並び、昭和の家父長制もイメージできる。

 規律やルールができ、それらの原理を絶対として遵守する【ブルー】の段階。非常に官僚的である。現在の日本社会はここに重心がある。

 個々の自由や尊厳を認め、成功のために合理的な行動を取る【オレンジ】の段階。起業家的だ。米国においての意識重心はここに到達している。

 そして世の全体の潮流として、相互尊重を図る【グリーン】の段階が出現している。ESGやSDGs、LGBTが認められてきたのもその一環。ただしこれを利権として活用し、あまりに主義主張が押し付けがましい団体が出てきていることの弊害もある。

 さて、冒頭に述べたマンガそれぞれと、これら「色」で表現される価値観各段階の、対応関係はいうまでもない。特に日本では、第二次世界大戦で、さまざまなものが「リセット」された後、戦後から現在までに著しく、社会の意識段階が成熟してきたといえる。

 各時代の主要なマンガ作品それぞれを見れば、その時点の社会における意識段階とリンクした作品が、見事にヒットを飛ばしていることが見て取れるであろう。だからこそ、いま昔のヒット作を見ても「何か古臭い」と感じることが多いのだ。

 ここで面白いのが、一つの作品内ですら、表現する意識段階の変遷を見て取ることができることだ。

『ドラゴンボール』(鳥山明、集英社)

 それの代表例が、国民的作品『ドラゴンボール』(鳥山明、集英社)である。本作においては当初、「天下一武道会」というトーナメント戦に出場し優勝することや(勝利こそ正義、の表れ)、「レッドリボン軍」という敵役を壊滅する(力で支配する)という姿が描かれ、人気を博した。レッド段階の表現である。

 そこからさらに、平和を脅かす「ピッコロ大魔王」や「サイヤ人」という異物が表れ、こうしたイレギュラーを排除して地球人を守る主人公の姿が表れた。ブルー段階でのヒーローである。

 最終的には、一見冷徹無比に見えた「人造人間」にも、人権意識といったものが描かれ、地球を守ることは大事だけど、自分は自分の道を生きたいという主人公たちの、オレンジ段階ならではの姿が描かれていった。

 最終話に至るまでには、グリーンの表現まで発露している。

 結果として、レッド・ブルー段階のシビアなエピソードよりは、個々の自由や相互尊重といった観点が強くなっていき、「生ぬるい」と感じていった初期読者の声も多い。ただし、このような変遷を辿る作品と考えれば、十二分に最後まで価値を感じられるのではなかろうか。

 親子間における葛藤や心の交流など、精神性の部分が多く描かれるようになった後半には一見の価値がある。


新着記事

»もっと見る