2024年12月23日(月)

MANGAの道は世界に通ず

2022年9月10日

 人生に絶望したことはあるだろうか。懸けていたことが台無しになり、無惨な結果となり、自分の人生を全否定されたような気持ちになることは、長い人生の中で、誰しも一度や二度、あるはずだ。多くの人にとっては、受験や就活、といった分野で特にそのような挫折を味わうことが多いだろうし、ビジネスマンたる読者の皆さんにおいては、担当している仕事や自らが営む事業で、何かしらの「大失敗」をしたことがあるかもしれない。

『賭博黙示録カイジ』(福本伸行、講談社)

 このような絶望の最中で、それでも前に進んで起死回生を果たす方法を教えてくれるのが『賭博黙示録カイジ』(福本伸行、講談社)という作品だ。このカイジだが、開始当初ではいわゆる「人間のクズ」のような描かれ方をする。

 日々怠惰なニート的生活をしながら、自らのストレス解消のために道端に並ぶ高級車に傷をつけたりと、散々な人物として表現される。

 そんなカイジが起死回生に臨んだのが、豪華客船のエスポワール号。ここで行われる決死のギャンブルにカイジたち参加者は挑み、あるものは成功し、ある者は朽ち果てていく。勝者は例えば2000万円もの大金を得られることもあれば、敗者は逆にそれだけの借金を負い、タコ部屋での重労働に従事させられることになる。

絶望の淵で光明を見出す

 こうした展開自体が非常に面白いが、特に見どころなのはカイジが騙されて絶望に沈んだ後、「圧倒的な復活を遂げる」というシーンがいくつもあることだ。知恵と智略を駆使して、カイジは何度となく浮上をするのだが、その凄みは、奇抜な発想力や実行力にあるのではない。絶望の淵に沈んだ際、それでも投げ出さず、かすかに見える光明を探して必死に蜘蛛の糸を手繰り寄せようとするその姿勢だ。

 それが表れる象徴的なシーンが、5巻第51話「腐蝕」からの展開だ。仲間に裏切られ敗北が決まり、部屋から脱出できずどうしようもなくなった状態。結果は、確定した。本来であればそれ以上にどうすることもできない。

 しかしカイジは、一度は絶望するものの、それでも諦めず、「あること」に気づき手を伸ばす。そこに決死に思いを懸けて行動し結果を掴んだことで、なんと敗者たちの部屋から脱出し、生き残ることに成功したのだ。

 実はこういった「逆転」のプロセスは、近年の心理学においてもかなり証明されてきている。以前の本稿でも触れた「成人発達理論」においては、自己否定することで新たな視点が手に入り成長する。そのためには失敗して葛藤することが必要である、と述べた。まさしくその通りであるが、さらに極端な状況に置き換えるなら、「絶望こそが本当のチャンス」といえるわけだ。

 発達理論における、「新たな視点を手に入れる=垂直的成長」、これは絶望の淵に沈んだ者だからこそ手に入れられるものである。あらゆる場面でのカイジの逆転劇、取り組みは、そのプロセスをありありと描いたものだといえる。

 だからこそ、もしあなたが人生のある瞬間に、それまでの努力が全て否定されどうしようもなく、絶望に沈んだと感じた際は、垂直的成長=新しい視点を得て一発逆転するチャンスなのだと、考えよう。それまでの価値観を捨て、別の考え方でチャレンジをしていく転換点だ。一環の終わりは本当の始まりなのである。


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