MANGAの道は世界に通ず

2022年1月29日

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『かくかくしかじか』

 本連載では数回に渡り、「いかに合理的に、若者やチームを科学してマネジメントするか」ということを記してきた。しかし、それらに真っ向から反対する教えを示唆するのが、『かくかくしかじか』(集英社)といえる。

 本作の著者は、ヒット作品を連発しており、器用な良い作品創りで知られる「東村アキコ」。代表作としては、映画化もされた『海月姫』や、『東京タラレバ娘』、などが特に有名であろうか。作品中にも記載があるのだが、女性ならではのマルチタスク脳なのだろうか、「友人やアシスタントと雑談し、よそ見しながら原稿をザザッと描き上げてしまう」といったことが可能なようだ。それにより多作が可能となり、ヒット作を連発しているのは、完全なシングルタスク脳の筆者として羨ましい限りだ(笑)。

 さて、作者自体が非常に個性豊かで、自分や子供の出演するエッセイ漫画も大ヒットしてきたのだが、一体どのようにして、その豊かな人間性や実力が育まれていったのだろうか? 実は、そのヒントが大いに散りばめられているのが本書なのである。近年、意識の高いビジネスマン界隈でブレイクした単語がある。それが「GRIT(グリット)」である。これは、邦訳すると「やり抜く力」ということになるのだが、ビジネスにおいても非常に重要なキーワードだ。要するに、ビジネスに限らずスポーツ・芸術といった多くの分野において、中長期的にしっかりと成功していくには、実は頭脳やセンスといった古典的な「才能」と見られてきたものより、この「やり抜く力」のほうが重要であり、それが近代では証明されてきているのだ。

 詳しくは、スマッシュヒットとなった名著『やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」』(アンジェラ・ダックワース、ダイヤモンド社)を見ていただければと思うが、そこに記載されているGRITの鍛え方や、判断の方法として、

・幼少期に、習い事などの課外活動を体験し、厳しくて辛くても1年以上続けたこと
・軍隊などの体育会系な環境におり、非合理的で苦しくても辞めずにやり抜いたこと

 この辺りで見ることが可能ということだ。こうした経験があれば大人になってからも、物事から逃げずに立ち向かい、苦しさも含めて楽しむことができ、長い目で見たら成長して大成功する可能性が高いのだ。逆にそのような要素を持たなければ、色々な理由を付けてすぐに逃げてしまい、中途半端な成果しか上げられないことが続くようだ。このようなGRITの鍛え方や、それの持つ本質的な価値に気付かせてくれるのが、本作品だと筆者は見ている。

 本作のストーリーの根幹を成すのは、主人公たる東村アキコと、いわゆる「昭和の頑固親父」風な絵画の師匠、「日高先生」との師弟物語だ。この日高先生だが、自分に預けられた生徒たちを、よい美大に入れるために徹底的に、激しく厳しく鍛える。そこに甘えは一切許されない。そこで示されるオーダーはただ一つ、どんな状況でも「描け」だ。……これが作品全体を通し、唯一絶対のメッセージとして発信されている。

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