表現される価値観が広がる
元々、鳥山明氏は意識段階の成熟した、「優しい」心根を持つ作者であると見受けられるが、敏腕プロデューサーだった編集者の鳥嶋和彦氏が、ヒット作に仕上がるよう、世の中に意識段階に合わせて調節した。
最終的には、作者の素のままの姿が徐々に出て来ることで、作品内で表現される価値観もより広い視点からのものになっていったわけだ。このように見れば、一層の歴史的マスターピースだと見ることができる。
なおドラゴンボールに限らず、10年を超える長期連載の作品であれば、初期から後期にかけてこのような変遷を辿っていった作品は数多くある。「シビアだった展開が生ぬるくなっていった」と感じたとすれば、それは作者が連載期間を通じて、精神性が成熟していったのだと見ることができるかもしれない。
特に出産など、家族ができていくことで、作風が変わっていた事例は枚挙に暇がない。人や集団ごとに価値観の段階は相違しているため、世の中から戦争がなくならない、議論だけでは解決できないことはこれも理由であるといえるのだ。
上述したインテグラル理論のフレームワークにより、各マンガ内の集団や登場人物それぞれがどの段階に位置しているのかを、考えながら読み進めると、一層刺激的に味わえることが間違いない。