2025年12月5日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2025年7月27日

 世界保健機関(WHO)がたばこ、酒、加糖飲料に対する「健康税」の強化を世界各国に要請した。これらは私たちの日常に深く根付いている嗜好品だが、その裏側には、個人の健康を蝕み、社会全体に重い負担を強いるという厳しい現実が隠されている。

(igoriss/gettyimages)

 日本では、たばこと酒には重い税が課されているが、加糖飲料には特別の措置はない。しかし、今、加糖飲料についても、生活習慣病の増加による社会的負担の増加という「見えないコスト」への対応が問わる事態になっている。

静かに蝕むたばこと酒、加糖飲料の隠された脅威

 たばこは、疑いようもなく「予防可能な最大の死亡原因」であり、年間13万人近くが命を落としている。喫煙者は非喫煙者に比べ、肺がんで死亡するリスクが男性で4.5倍にも跳ね上がり、心疾患や脳卒中のリスクも1.7倍に増加する。脅威は喫煙者本人にとどまらず、受動喫煙によって、年間1万5000人の非喫煙者が死亡している。

 飲酒の被害もまた深刻で、総死亡者数の3.1%に相当する年間3万5000人が死亡している。肝硬変やがんのリスクを高めるだけでなく、認知症との関連も指摘されている。

 さらに衝撃的な事実は、飲酒がもたらす社会経済的損失が、年間で実に4兆円以上にものぼることだ。医療費や生産性の損失を含むこの額は、酒税収入1兆円強をはるかに上回る。

 砂糖の有害性は、たばこや酒の毒性とはメカニズムが異なる。「砂糖が直接の原因である死亡」という統計は存在しない。その影響は間接的に生活習慣病を助長するものであり、肥満、2型糖尿病、心血管疾患といった代謝性疾患を引き起こすのだ。

 そして、砂糖より安価なため、清涼飲料水や加工食品に多用される果糖ぶどう糖液糖などの異性化糖は、砂糖と同様に、内臓脂肪の蓄積やインスリン抵抗性を促進することが指摘されている。砂糖や異性化糖そのものを制限することは困難なので、代替手段として、これらを多量に含む加糖飲料の制限が世界的な課題になっている。

 日本の過体重・肥満の割合は、米国、ヨーロッパの約半分だが、男性の肥満率(BMI ≥ 25)は過去10年間で有意な上昇傾向にあり、現在では31%を超えている。また、糖尿病の有病率は米国よりやや低いものの、ヨーロッパに近い値である。そして、成人男性の18.1%、女性の9.1%が糖尿病を強く疑われており、その総数は1700万人に達する。


新着記事

»もっと見る